第85話 裏切り者おおおおお!!
「この裏切り者ガアアアアアア!!」
「うえええええ~~!???」
『マスター、右に半歩後退して回避してください』
怨嗟の雄叫びを上げてマガミが操縦する工事用メタルライドが突撃してくる。
ミオンは困惑の声を上げながらナビィの指示通り機体を操縦して、マガミの突撃を回避する。
「お前だけは……お前だけはこの手で倒すっ! リア充は抹殺じゃあああ!!」
「うおおおおっ! マガミー!! 殺せー!!」
「俺達の嫉妬パワーを受け取ってくれえええ!!」
マガミは大きく弧をかいて方向転換し、血の涙を流しそうな形相でミオンを睨み、再度突撃をかましてくる。
観客席からも一部のむさくるしい男達がマガミに暑苦しい声援を送る。
「理不尽すぎるっ!!」
『このまま回避を続けて、相手のエネルギー切れを狙いましょう』
ミオンは闘牛士のように回避しながらどうしてこうなったのか思い出す。
控室での挨拶を終えてお互いに機体に乗り込み、リングに上がるまではマガミは普通だった。
実況のアナウンサーが双方のプロフィールや期待を観客に向かって紹介する。
状況が変わったのは観客席のターカー達が声援を送った時だった。
「ミオンー! 勝ったらまたお風呂で隅々まで洗ってやるぞー!」
「今回は~、私達も~、一緒に入ってイーっパイサービスするから~、頑張ってね~!」
酒に酔ったターカーが大声で一緒に風呂に入って洗ってやると叫ぶ。
悪戯心に火が付いたアリスが便乗するようにリディやイザベラ、リンを巻き込んで一緒にお風呂に入ると大声で宣言する。
「ちょっとアリスさんっ!? いきなり何言ってるんですかっ!!」
「わたっ、私もですかっ!? えっと……ミオンさんがご迷惑ゴニョゴニョ……」
「ちゅーか、ミオンはん……ターカーはんと一緒にお風呂入ったことあるん?」
急に振られたリディは顔を真っ赤にしてアリスをぽかぽか殴って抗議し、イザベラは耳まで真っ赤にして俯いて小声でごにょごにょと何か呟き、リンは冷静に以前ミオンとターカーが風呂に入った間柄であることを分析していた。
「あ、負けたら女装してティーチ副官の接待な」
「えうっ!?」
プシっと何本目かの缶ビールのプルタブを開けながらターカーは試合に負けた場合の罰ゲームを叫ぶ。
罰ゲームの内容が聞こえたミオンはすっとんきょんな声を漏らし、観客席にいた一部の男女がガタッ!と立ち上がる。
「ふ……ふふ……ミオン……お前とは……お前とは良い好敵手になれると思っていたのにいいい!!」
ターカーとのやりとりを聞いていたマガミはコクピット内で肩を震わせ、怨嗟の籠った視線でミオンを睨んだ。
試合開始のゴングと同時に裏切り者と叫び、今に至る。
「避けるんじゃねえ!!」
「避けるに決まってるでしょ!!」
マガミはがむしゃらに突撃するのをやめると接近戦に持ち込み、両椀を振り回す。
ミオンは後ろに下がって距離を取ろうとするが、防御を捨ててインファイトを狙ってくるマガミはさらに距離を詰めてくる。
「イケメン、リア充、俺よりモテるやつはみんな俺の敵じゃあああああ!!!」
元々戦闘用じゃない工事用メタルライドは殴られるたびに装甲が歪み、不具合を知らせるアラームがコクピットに鳴り響く。
「ミオン! お前を倒して! 俺はっ……俺はっ、ハーレム王になるウウウ!!」
『今ですマスター! しゃがんで!!』
壁際まで追い込まれ、止めを刺そうとマガミは腕を振り上げる。
その瞬間、ナビィの叫びにミオンの体が反応し、機体をしゃがませる。
「なにっ!?」
『すぐに立って!』
「このっ!」
ミオンの機体がしゃがんだことで、マガミの拳はリングの壁を殴り、腕のフレームが歪む。
しゃがんでいたミオンの機体が立ち上がると、頭突きをするようにマガミの機体にぶつかり、マガミの機体はバランスを崩して踏鞴を踏む。
「女装は嫌だから! 勝たせてもらうよっ!!」
「うわおおおおおおっ!?」
ミオンは期待の両手を間に突き出し、バランスを取ろうとするマガミの機体を突き飛ばす。
突き飛ばされたことでマガミの機体は完全にバランスを失い、轟音を立てて転倒した。
「決着! 勝者ミオンッ!!」
マガミの機体が転倒したことで勝負がつき、リングアナウンサーが勝者宣言する。
会場は歓声と怨嗟の声が響き、はずれの電子チップが紙吹雪のように舞った。
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