第64話 夕食


「皆様、今回は護衛依頼と急遽輸送依頼受けていただきありがとうございます。細やかながらですが、晩餐を用意させていただきました。長々と挨拶してせっかくの料理を冷ますのは料理人に失礼ですので挨拶はこれにて、それではチアーズ!」


 農業コロニーの食堂を会場にバイキングスタイルで晩餐会を開いたヤポンスキーは短い挨拶を終えて、乾杯の音頭を取る。


 ミオンから見てみたことも無い料理が大量に並び、バイキング形式も知識のないミオンは皿を持ったままぽつんと立っている。


「ミオン? 食べないの?」

「いや……えっと……どうしたらいいかわからなくて……」


 ミオンがおろおろしているとリディが声をかけてくる。


「バイキング方式だから好きなものを好きなだけ食べていいのよ、イザベラみたいに」


 リディはそう言ってイザベラがいる方向を指差す。

 ミオンが視線を向けると良く崩れないなという絶妙なバランスで様々な料理がタワーのように積みあがってる皿を持ったイザベラがいた。

 

 他のゴールデン・バッグの女性陣も思い思いに料理を取り、コロニーの人達と談笑していたりする。


「気になった料理一口サイズに切り分けて食べてみたら?」

「うん、そうしてみる」


 そういってミオンはずっと気になっていた料理を取りに行く。


「なんか、異性というより……世話の焼ける弟みたいね」


 そんなミオンの後姿を見ていたリディはそう呟くとミオンを追いかけて、自分のお勧めの料理をミオンの皿にのせていく。


「ミオン、これもおいしいよ」

「そんなにいっぱい食べられないよ……」



 気が付けばリディは世話焼きお姉さんのようにミオンの皿に次々と料理を乗せていく。ミオンは苦笑しながらリディが皿に乗せていく料理を食べていく。


「ミオンは線も細いし、もうちょっと筋肉とかつけるべきよ。じゃないと銃の反動とか抑えられないでしょ」

「スゲー! 姉さん強すぎるぞ!!」

「ん?」


 ミオンがリディに世話を焼かれながら食事をしていると、食堂の一角で騒いでいる人達がいた。


「全くふがいないね。他に挑戦者はいないのか?」

「ターカーとの~、飲み比べにに勝ったら~、私が~、サービスしちゃうよー」


 何事かと覗き込むと、テーブルの上に顔を真っ赤にして突っ伏している男達と、ジョッキ片手に周囲を挑発しているターカーとアリスがいた。


「今度は俺が相手だ!!」

「警備隊長! こいつらの仇とってください!!」


 スキンヘッドの強面マッチョが参加料のチップを払って名乗り出ると、観客たちが警備隊長と囃し立てる。

 どうやら酒の飲み比べ勝負をしているらしく、警備隊長とターカーが交互にショットグラスの酒を飲みあっている。


「あーあ……あの人可愛そうに……ターカー先輩ブラックホールなのに」

「なにそれ?」


 飲み比べの様子を見ていたリディが憐憫の目で警備隊長を見つめて呟いていた。


 ミオンがどういうことかと聞くと、ターカーはお酒にかなり強いらしく、こういった飲み比べで負けたことがなく、飲み比べ勝負で別の雪豹チームから戦闘車両を勝ち取ったこともあるという。


「たいちょおおおおおおおお!!?」


 悲痛な叫び声が聞こえてミオンが振り向けば、警備隊長と言われていた人がスキンヘッドの頭頂部まで真っ赤になって仰向けに倒れてていた。


「面白そうですね、私も参加していいですか?」

「かっ、会頭!?」

「無礼講です、楽にしてください」


 騒ぎを聞きつけたヤポンスキーがチップを払ってテーブルにつくと、コロニー側の従業員達がぎょっとした顔で整列し、それを見たヤポンスキーが無礼講と伝える。


「依頼主でも、手は抜かないよ」

「接待などご無用ですよ」


 ほんのりと顔を赤くしたターカーが一瞬緊張した表情を見せるが、ヤポンスキーは笑みを浮かべたまま接待は無用と伝える。


「………」


 ターカーとヤポンスキーの飲み比べが始まって30分、周囲は沈黙に包まれていた。

 二人の周りにはビールケースが積み上げられ、かなりの量を飲んでいることが分かる。


「な……なかなかやるじゃないか……ここまで食らいついたのは……あんたが………」


 顔を真っ赤にし、ふらふらしながらターカーがヤポンスキーを褒めようとしてぶっ倒れる。


「嘘……ターカー先輩が負けた!?」


 ターカーが倒れたことにゴールデン・バック側が信じられないといった顔で倒れたターカーを見ている。


「ふむ……急性アルコール中毒の可能性はないようですね。責任もって私が運びましょう」


 けろっとした顔のヤポンスキーが立ち上がると、ヤポンスキーよりも体格のいいターカーをひょいっとお姫様抱っこして、よろけることなくしっかりとした足取りで食堂を出ていく。


 両方の陣営はターカーを軽々と抱き抱えるヤポンスキーの後姿を呆然と見送っていた。

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