第52話 ダニーとホーニー


『イラッシャイマセー、ザ・カウントニナンノヨウカ?』


 二人の喧嘩に呆然としていると、独特のイントネーションで話しかけてくるロボットがいた。

 そのロボットはドラム缶に目と口をつけ、移動手段にキャタピラ、手手先がUの字型になっているマニュピュレーターを搭載していた。


「ええっとメタルライドの修理の依頼を……」

『ワカッタ、チョットオマチヤガレ』


 敬語になってない敬語でロボットは用件を聞くと、親子喧嘩をしている二人の間に入る。

 どうやって二人を止めるのかとミオンが見ていたら、原理はわからないが腕が伸び、Uの字型の手先なのに器用に板金板を持ち上げて二人を叩いて物理的に喧嘩を止めていた。


「おーいて……えーっと修理だっけ? 機体は何処?」

「えーっと……機体はゴールデンバックのアジトに置いてて……彼女たちから修理先聞いたらここがいいって紹介されて……あ、機体はこのタイプなんだけど……」


 作業着を着た中年に怒鳴られていたダニーと呼ばれた角付きバンダナをした青年が殴られたところをさすりながら応対に来る。

 ミオンはPDAを操作して自分が所持している工事用ライドメタルの画像データをダニーに見せる。


「量産型の工事用ライドメタルかぁ……なあ、せっかくだから角つけね? こことここにこんな感じでさ」

「修理だけでいいから……あの病院のドクターの知り合いか親戚かな?」

「あ? 今なんつった?」


 画像データを見たダニーは修理だけでなく角もつけようぜとミオンに推し進めてくる。

 それを聞いたミオンは、自分をドリル付き義体に改造しようとしたドクターを思い出し、思わず口走るとダニーの目が釣りあがってドスの利いた声で聞き返してくる。


「ドリルなんて邪道だ! あいつにはそれが分かってねえんだっ! 男ならそそり立つ角だろっ! あんたならわかるだろ? ドリルよりも角がいいってさ! なあ?」

「ごめん、どっちもわからない」


 どうやらダニーと件の医者は既知なのか、ドリルより角の方がいいと語り始める。

 ミオンに同意を求めようとするが、ミオンはどっちもどっちだと答えるとショックを受けたような顔をする。


「なんでだよっ! いいか? 角ってのは! こう———へぶっ!?」

「客に角を勧めるなと言っただろっ!」


 ダニーが角について熱く語ろうとすると、背後に忍び寄った父親がレンチで殴って黙らせる。


「すまねえ、ザ・カウントのオーナーのホーニーだ。実際にばらしてみてみねえとわからねえが修理に出せる予算はどれくらいだ?」

「えーっと……」

『マスター、相場が分からないので同機種での大まかな修理金額を聞いてください』


 息子をレンチで殴って黙らせて何事もなかったように自己紹介をするオーナーのホーニー。

 予算を聞かれて相場のわからないミオンはしどろもどろになるが、ナビィがフォローするように同機種の修理額を聞くように助け船を出す。


「ええっと……相場が分からないので同機種の修理額とか聞いていいですか?」

「ん? どれくらいだったかな?」

『コノタイプノ、メタルライドヲ、オーバーホールデスト、コチラノオネダンデス』


 ミオンが修理相場を聞くとオーナーのホーニーはいくらだったかと思いだそうとし、近くにいたドラム缶型ロボットの目がスロットマシンのよのうに回転し、数字が表示されていき、最後にチーンという音が鳴って修理金額が表示される。


「随分と個性的ですね」

「こんな機能搭載したっけ?」


 そんな感想を述べながらミオンは修理に出すことを決めて書類にサインをする。

 ミオンはサインしながら、ほんの少し前まではこの修理金額を見たら卒倒していたか、雪堀せずに1週間は引きこもれると悪態ついてたかもしれないと思った。


「なあ、ついでに角つけね? 料金こっちで持つからさぁ」

「おめえ、ほんと懲りねえな!」


 復活したダニーがなれなれしくミオンと肩組んで角をつける承諾書にサインさせようとして、ホーニーに殴り飛ばされていた。

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