第50話 リディ達の提案
「あー緊張した……失言が多かったなあ?」
『ですがあの方はマスターを心配して注意をしてくれました』
ハイレディンとの面会を終えたミオンは盛大なため息をついて、壁にもたれかかる。
「まさかお風呂に入れられるとは思わなかったよ」
『こういう時実体ボディがあればマスターを助けられるのに……何もできなくて申し訳ありません』
ミオンも護衛依頼の話を持って行って、まさかターカーにお風呂に入れられ、全身くまなく洗われて、たまたま現場にいた他のメンバーたちに着せ替え人形にされるなんて予想できなかった。
服を脱がされて脱衣所にPDAを置かれると実体を持たないナビィは手足をもがれたように何もできず、仕切りの向こうから聞こえてくるミオンの声にハラハラするぐらいしかできなかった。
「いや、大丈夫だよ。孤児院にいた頃を思い出して、ちょっと懐かしいと思ったよ」
ミオンは孤児院時代の幼いころ、姉にあたる年長の女性陣から体を洗われたり、自分のお古の女性物の服を着せられて遊ばれたことがあり、今回のターカーの行動も孤児院時代の思い出と重ね合わせていた。
『(やはり……物理的にマスターのサポートをするには実体ボディの確保は必須。もう少しこの時代の情報を手に入れて、どこかでボディを手に入れないと)』
ナビィは実体ボディの確保を急務とタスクを作成し、最優先事項に組み込んでいた。
「あ、ミオン……」
「こっ……こんにちわ……」
「あ……リディ、イザベラ……えーっと久しぶり?」
ミオンが出口に向かう途中、リディとイザベラと再会する。
植物園跡の惨劇後はお互い顔を会わせておらず、再会した今も挨拶がぎこちない。
「えーっと……大丈夫……?」
「う、うん……」
「………」
ミオンは親友を失ったリディにどう声をかければいいか迷い、当たり障りのない事を言おうとする。
リディはぎこちなく笑いながら返事し、イザベラは何とも言えない顔で視線をそらした。
「その……えっと……それじゃ」
「あっ! 待って!!」
しばし沈黙が続き、ミオンは場の空気を換えようと口を開くが、結局何も言葉が思いつかず、その場から立ち去ろうとする。
リディは慌てたようにミオンの防寒具の裾を掴んで呼び止める。
「ミオン、私とイザベラから話があるの。時間いいかな?」
「あの、無理にとは言わないんで……話聞いてくれますか?」
「えーっと……うん、いいよ」
リディとイザベラから話があると言われ、ミオンが承諾すると近くの開いてる部屋に入る。
部屋に入って数分三人とも黙ったままで、壁に掛けてあったアナログな時計の針の音だけが響いていた。
「……話って?」
最初に口を開いたのはミオンだった。
「ミオン! 私達とチームを組んでほしいの!」
「え? 僕男だよ?」
いきなりリディからチームを組んでほしいと言われ、青天の霹靂のようにミオンが驚く。
「男とか女とかそういうの、拘れるほど私達は力がない。私達がブケだっていったの覚えてる? 死んでいった三人の為にも立ち止まれない」
「なんで僕と? ゴールデンバックだったら他にも人がいるんじゃ?」
そう熱弁するリディからは出会った当初の傲慢さや驕りといった物は消えていた。
それでもAランクチームに所属しているのに、無所属でGランクでしかない自分となぜ組みたがるのか、ミオンには理解できなかった。
「雪豹にとって必須ともいえるものがミオンには備わってる。私達はそう思っているし、それにかけたいと思ってるの!」
「雪豹に必要な物?」
「私達になくてミオンにある物、それは幸運とどんな状況でも生き延びる諦めない心よ!」
リディは雪豹にとって必須な物は幸運と生き延びる精神だと言い、ミオンにはそれがあると熱弁し、イザベラも同意するように力強く頷いてる。
「私達と組むメリットも提示する。私達には今日まで培ってきた雪豹としての知識がある。ミオンは雪豹になって1年未満でしょ? 遺跡の何が価値があるか、フロストシティのどこで売ればいいかわかる?」
「わひゃっ……ゴホン、私は医学と爆薬物知識があります」
リディは自分達と組むメリットも提示する。
リディは雪豹としての一般常識など、イザベラは医学と爆薬物知識があるとアピールする。
「ええっと……そうだ! 僕ヴァルプルギス・ナイト・マーケットから護衛依頼受けててさ、ゴールデンバッグの皆さんと合同で護衛することになったから、それに一緒に参加してから決めない?」
「えっ……?」
「ヴァルプルギス・ナイト・マーケットから護衛依頼?」
ミオンはいきなりチームを組むというのが実感できず、もう一度臨時チームを組んで仕事をしようと思い、二人にヴァルプルギス・ナイト・マーケットの護衛依頼に参加しようと提案する。
リディとイザベラはミオンの口からヴァルプルギス・ナイト・マーケットなんて単語が出てくるとは思わず、ハトが豆鉄砲喰らったような顔をしていた。
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