第48話 ハイレディンの思惑


「なんで孤児上がりのGランクがヴァルプルギス・ナイト・マーケットの会頭と直通のチャンネルなんて持ってるんだよ……」


 ミオンがターカーによって風呂に入れられている一方、ゴールデンバックのリーダーこと、ハイレディンはミオンが持ってきた依頼に頭を悩ませていた。


 ハイレディンからするとヴァルプルギス・ナイト・マーケットとは、新進気鋭の商会で、個人所有の大型スチームハブとコロニー型の大型ファームを持っており、フロストシティを含む複数の都市を支配する十大企業のどれかと入れ替わる、もしくは十一番目の企業として迎え入れられると巷で噂されている化け物商会だ。


 ミオンは孤児院上がりで生きていくために雪豹になってまだ一年も経っていない。

 ハイレディン自身も情報屋などを使ってミオンの出自の裏取りをしており、敵対都市が送り込んだアンダーカバー、どこかの企業の息がかかった工作員でもない、正真正銘どこの都市にでもいる孤児上がりの有象無象の雪豹の一人だと確認していた。


 そんなどこにでもいる雪豹が、こちらか縁を繋ぎたくても会えるかどうかすらわからないVIPからの依頼を持ってきた。

 青天の霹靂どころではない衝撃をハイレディンは受けていた。


(もしかしてミオンはヤポンスキーの隠し子か? もしくはヤポンスキーの近親者か近親者の子供? 下手すると火中の栗どころか火中の黄金レベルだぞ、あいつ)


 ハイレディンはミオンに対する評価をどうしようか思い悩む。


「依頼受けないんですか?」

「受けない選択肢はないことぐらいわかってるだろ、ティーチ」


 ハイレディンがあれこれ考え事していると、横に立つ眼鏡の副官ことティーチが声をかけてくる。


「護衛部隊は誰を出します?」

「ミオンは今うちに来ているんだろ? 遺跡の規模や脅威度、回収品の量を聞かないと出す車両も決まらない。とりあえず護衛部隊は顔見知りのターカーと奇麗処何人か見繕え」


 ティーチがPDAを操作して現在チーム内で動かせる部隊や車両を確認しながら依頼を受けるかどうか聞く。


「本格的に勧誘ですか?」

「そのつもりだったが……ミオンに対するヤポンスキーのスタンスが読めない。強引に押し進めてミオンの機嫌損ねて、そこからヤポンスキーの不興に繋がったりしたらと思うとな……」


 ハイレディンは難しい顔をしながらシガ—ボックスから煙草を取り出し口に咥える。


「そんな風に難しく考えるのは似合いませんよ。リーダーは考えるより直観に従ってください。今までそれで生き延びてきたし、私達はリーダーの直観に従って生きてきたのだからですから」


 ハイレディンは煙草に火をつけて、肺一杯に煙を深く吸い込み、ゆっくり吐く。


「そうだな……今は軽く粉をかけて様子見だな。よし、ミオンから今回の遺跡の詳細聞きたいから呼んでくれるか?」

「わかりました」


 ハイレディンがミオンを呼び出すと、つやつやした肌で一千やり遂げたようなご満悦顔のターカーと、風呂上がりで……なぜかやつれ顔のミオンがやってきた。


((あ……こいつ、ターカーに喰われたな))


 ハイレディンとティーチは二人の様子を見て同じことを思っていた。

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