第47話 身だしなみとお風呂


「ところでミオン、まさかと思うけど……その恰好でマーケットとか行ってないよな?」

「え? 行きましたけど?」


 ミオンの接待をしていたターカーはミオンの外見を見てまさかなと思いつつ問うと、ミオンは行ったと答えて、自分の服装のどこがおかしいのかと見直している。

 ターカーから見たミオンの今の格好は遺跡帰りの薄汚れた格好で、服もいつ洗濯したかわからないし、お風呂も数日は入っていなそうで髪はぼさぼさで埃っぽく、肌も薄汚れていた。


「……警備員に止められなかったか?」

「止められました。ちゃんとアポとってるって伝えたんですけど、そんなことないって……何かいけなかったですか?」


 ターカーがアチャーといった感じで警備員に止められなかったかと聞くと、ミオンは何でわかるんですかと驚いた顔で呼び止められた状況を説明する。


「そりゃ止められるさ。ヴァルプルギス・ナイト・マーケットモールと言えば市民権を持つ比較的裕福な層が行くモールだからな。あたしらもマーケットモールに行く時はおめかしして身綺麗にしていく場所だぜ」

「服って寒さ防げて着れたらいいじゃないですか?」

「あー……まずそこからかあ……」


 ターカーが服装などTPOについて説明するが、スラム育ちの孤児院出身、最近HランクからGランクに上がったばかりのミオンからすると、身だしなみの意味が理解できず着れたらいいという認識にターカーが頭を抱える。


「ミオン、お前はGランクになったし、これからランクアップしてブケのように市民権を得れば偉い人と顔を会わすこともある。そんな時、今のような格好しているとどうなると思う?」

『………』

「えーっと……わかりません」


 ターカーの質問にミオンは応えられず、ナビィに頼ろうとするが、ナビィからも返答を得られないのでミオンは分からないと答える。


「舐められる、馬鹿にされる、下に見られる。得てして良い印象を与えない。成り上がると身なりにも良くしないといけないんだ。市民でお前みたいな服装のやついるか? お前みたいな服装しているやつが市民だと言って信じるか? ぼろ布着た奴が市民と知り合いで、仕事斡旋してもらえると言って信じられるか?」

「確かに……いわれると……」


 ターカーに言われたことを思い浮かべれば確かにそうだとミオンも理解する。


「せっかくだし、ちょっと身だしなみとか教えてやるよ! まずは風呂だ、行くぞ」

「えっ!? いやあのっ!? 一人で歩けますよ!」


 ターカーはひょいッとミオンを小脇に抱えるとアジトにある大浴場へ向かう。


「大丈夫! 何もしないからっ! ちょっと奇麗に隅々まで洗うだけだからっ!」

「あのっ!? ターカーさん?」


 ミオンを小脇に抱えて大浴場へ向かうターカーを見たゴールデンバックのメンバーはああ、またかという顔で見て見ぬふりをし、男性メンバーはミオンに向かってゴットスピードと呟いて敬礼して見送っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る