第46話 借金返済


「よう、ミオン!」

「ターカーさん、こんにちは。傷の経過は大丈夫ですか?」

「そんなやわな鍛え方はしてないからね。それで今日はどうしたんだい? 返済でも待ってほしいのかい??」


 翌日、ミオンがゴールデンバックのアジトへと向かうと、玄関口でターカーがミオンを出迎え声をかけてくる。

 ミオンが怪我の経過を聞けばターカーはボディビルダーのようなポーズをとって元気なアピールしながら用件を聞いてくる。


「いえ、全額返済しようと」

「そうか、そうかぜんが……え? 全額!?」


 ミオンが全額返済するというとターカーは驚いた顔をする。

 ゴールデンバックへの負債額は大金というほどではないが、H~Gランクの雪豹が一括でポンッと払える額ではなかった。


「はい。Gランクの遺跡で見つけた物に価値があったみたいで……」

「へえ、一山当てたってわけかい? 無理して全額返済しなくてもいいんだぜ? 半額ぐらい返済して、残りを装備に当てるとかさ。ほら、あんたが拾ったライドメタルの本格的な整備とかさ、お金かかるだろ?」


 ミオンが遺跡で価値のある物を見つけたと報告すると、ターカーは笑みを浮かべて喜ぶが、無理して遺跡潜りで得た儲けを全部借金返済に割り当てていると勘違いしてアドバイスしてくる。


「ええっと……返済以外にもお願いしたいことがありまして……借金したままだとお願いしにくて……」

「そんな遠慮しなくてもいいのに。頼み事って何だい? 卒業したいのか?」


 ターカーは人差し指と中指のあ間に親指を挟むジェスチャーをしてミオンをからかうが、そのジェスチャーの意味が分からないミオンはきょとんとする。


「実は護衛依頼を受けまして……それで人手と足が欲しくて……これ、依頼人からの依頼書です」

「おっ! 自分で仕事見つけてきたのか? どれど……あれ? ちょっと疲れてるのかなあ? おい、ちょっとこれ読んでくれ」


 ヤポンスキーが作成した依頼書のPDFをターカーのPDAに送信する。

 ターカーは送られてきたPDFを読むと、凍り付いたように無表情になり、見間違えたかなと目頭を揉みながら何度も読んで、近くにいたメンバーにPDFの内容を読ませる。


「……ヴァルプルギス・ナイト・マーケットの社章である篝火のマークと社員と思われる方のサインですね。あそこで販売されてる無汚染フルーツジュース最高なんですよねえ。たった一杯で雪堀数日分の儲けが飛んじゃいますけど」

(僕が飲んだの、そんなに高い奴なのっ!?)


 呼び止められたメンバーの呟きが聞こえたミオンは、会頭室で飲んだジュースが凄い価値だったことにぎょっとしていた。


「そっか、あたしの見間違いじゃないんだ……そっかー……」

「あのう……何か都合悪かったですか?」


 ターカーは遠い目をしながら依頼書が本物であることに遠い目をしている。

 ミオンは依頼を受けれない用事か理由があるのかと心配そうに声をかける。


「いやっ! そういうわけじゃないんだけど……」

「依頼主さんは移動用の車両や輸送手段を求めてるので、車両を動かすとなると上の判断が必要なんですよ」

「そっ、そうなんだよ! ほら、車両動かすとなるとさ色々手続きがあってさ」


 ターカーはしどろもどろにそうじゃないと歯切れの悪い言葉を繰り返し、呼び止められたメンバーが車両を動かすには上の許可がいると言い訳すると、ターカーもそれに便乗するようにうんうんと首を振る。


「あんた、ちょっと許可取れるか聞いてきてくれよ。ミオン返事が来るまで待っててもらえるか?」

「ええ、いいですけど」


 ターカーは呼び止めたメンバーに自分のPDAを渡して、上司の判断を乞うように伝え、ミオンをグレードの高い応接間に案内する。


「ミオンがマーケットの会頭と知り合いとは知らなかったよ。どこで知り合ったんだ?」

「ええっと、バトルリングの会場です。そこでお話した時にライドメタル関連の物が出たら売ってほしいと言われて、遺跡で見つけて持っていったら……」


 ターカーは応対しながらミオンがどこでヤポンスキーと出会ったか聞き出す。

 ミオンはヤポンスキーとの出会い、遺跡での出来事、今回の護衛依頼になったいきさつをターカーに説明する。


(リーダー……この子持ってるどころじゃないです。掘れば確実に採取できる金鉱脈ですよ)


 ターカーはミオンの評価を数段上げていた。

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