第44話 アメコミの価値は?
「どうぞ寛いでください。何か飲みますか? 珈琲、紅茶、お茶、なんでもありますよ。あ、もちろん天然物です」
「え、ええっと……」
会頭室に招き入れられたミオンはその室内の調度品に圧倒されていた。
ミオンから見ても凄い価値がありそうと思う調度品、ヤポンスキーが先ほどまで仕事をしていたと思われる机と椅子は天然の木材が使われており、ミオンが今座っているソファーも饒舌しがたい座り御心地と手触りだった。
「あ! 私が運営管理する農場で今朝収穫した無汚染フルーツの生絞りジュースとかいかがです? 品質管理は徹底しているのですが、やはりこうして時々味を確認しないといけませんし、第三者の意見とか聞きたいですしね」
「じゃっ……じゃ、それでお願いします」
ヤポンスキーは冷蔵庫からオレンジと思われる果実を取り出すと、室内に併設されているキッチンでヤポンスキー自ら生絞りジュースを作りミオンに提供する。
「うわぁ……おいしい……」
「ありがとうございます。さて、遺跡で見つけた物を買い取ってほしいとのことでしたが、現物はございますか?」
「あ、これです」
ミオンは提供されたジュースを一口つけるとあまりのおいしさに一気に飲み干す。
ヤポンスキーはそんなミオンの仕草を見て終始笑みを浮かべたまま、本題に入る。
ミオンはジュースのおいしさに気を取られてここに来ていた理由を忘れかけていたが、ヤポンスキーの一言で本来の目的を思い出すと、質屋の金庫で見つけたライドメタルのイラストが描かれた本を取り出す。
「ほぉ……紙媒体のアメコミですか……しかもこれは……ライドメタル作品で有名な著者のサイン入りじゃないですか!」
ミオンがアメコミを取り出すとヤポンスキーの糸目が見開く。
ミミズが這ったような落書きは著者のサインだったようで、ヤポンスキーがはしゃぐような声を上げる。
「あとこちらの貴金属品も持ってきました」
「……まさか紙媒体で現存しているのを生きているうちにこの目で見られるとは……」
ミオンは続いて同じ質屋の金庫から回収した貴金属も取り出すが、ヤポンスキーはアメコミに夢中なのか見向きもしない。
「少しこのコミックお借りできませんか? 専門の鑑定師に依頼して正確な価値を査定したいと思いますので」
「え? ええっと……」
「ああ、もちろんタダで貸してくださいなんて無粋なことは言いません。レンタル料としてこれだけお支払いします。鑑定が長引くようでしたら、延滞料金もお支払いします」
ヤポンスキーが鑑定するためにアメコミを貸してほしいと提案し、ミオンは困惑する。
ミオンからすると売れなかったら焚火の燃料にしようかと思っていた程度の物。
ヤポンスキーのリアクションから価値があることは分かったが、どうして価値があるのかわからず困惑している。
ミオンのリアクションを見たヤポンスキーは執務用の机に置いてあったパソコンを操作し、データチップを作成するとミオンにレンタル料金だと言って手渡す。
「いっ!?」
「失礼な額でしたか?」
データチップをPDAで読み込むと、決済済みの電子マネーが表示され、その額にミオンは絶句する。
ヤポンスキーがレンタル料金として提示した金額はゴールデンバックへの借金を全額返済し、今ミオンが持ってるライドメタルの整備と燃料、弾薬やサーマルエナジー等の装備補充して、しばらく雪豹活動しなくても暮らしていける金額だった。
「ミオン君、君が見つけてきた物はこれだけですか?」
『マスター! しっかりしてください!!』
「……あっ! いっ、いえっ! 持ち帰れなかったので電子ロックして置いていった分があります!」
あまりの額にミオンは惚けていたが、我に返るとまだ置いてあると答え、金庫内で撮影した写真を見せる。
「ふむ……失礼を承知で言いますが、君はこの金庫の中の価値があまりわかっていないのでは?」
「ええっと……はい」
ミオンはヤポンスキーの問いに正直答える。
「では、こうしましょう。ミオン君、一つ条件を飲んでくれるなら、金庫の中身全部私が買い取ります。どうですか?」
「条件って何ですか?」
「簡単です。私をこの金庫がある場所まで案内してください。どれが価値があるか現地で軽くレクチャーもつけましょう」
ミオンが条件を聞くと、ヤポンスキーは件の質屋の金庫まで案内するのが条件だと答えた。
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