第38話 鼠退治
「各自割り振られた倉庫に向かってくれ。わかってはいいると思うが……倉庫内の備蓄の破損は弁償、窃盗は理由や量を問わず警告無しのその場で銃殺だ」
ミオンは今Gランクから受けられる依頼仕事に参加している。
今回受けたのはフロストシティに多数ある食糧庫の鼠狩り。
そんな鼠退治がGランクから受けれる仕事なのかというと、その大きな理由は食糧庫にいる鼠はしており、平均サイズがだいたい小型犬とほぼ同サイズで、
食糧庫は備蓄する食料の関係から一定温度の維持、豊富な食料と繁殖に適した条件から温床になっている。
有象無象の武装すらままならないHランクだと返り討ちにあう可能性が高く、Hランクを負傷させた鼠が人間の味を覚え、積極的に人間を狙う可能性もある。
実際大の大人でも油断すれば噛み殺されるし、うっかり鼠を刺激して指を食いちぎられる事件がミオンの孤児院でも多々あった。
そういうわけで、ある程度自衛能力を持ったGランクの雪豹を投入することが非常に多い仕事だった。
鼠狩りは食料を守るために非常に重要な仕事で実入りが大きく、Gランクというかけだしの雪豹からは人気の仕事だ。
ミオンがこの仕事にありつけたのもある程度の武装をしていることと、たまたま受ける予定だった雪豹が前日の雪堀か何かで負傷して欠員が出た時に、たまたまミオンが近くにいたという偶然が重なった。
鼠狩りに銃を使う者はいない。的が小さいうえにすばしっこく、案内役が言ったように倉庫の備蓄に命中して破損させるとペナルティーが加算されるし、場所によっては狭い屋内だったりするので跳弾や誤射が怖い。下手に銃など抜いたら周囲の雪豹から袋叩きされる。
鼠狩りを専門に受ける雪豹たちの中にはラットスレイヤーなんて呼ばれる鼠狩りを専門にした人たちもいた。
対図する数にもよるが、鼠狩りだけで程度生活ができる収入を得られる。人気の仕事となるのも納得だとミオンは思った。
「このっ! このっ!」
担当倉庫で向かってくる鼠をスコップで殴り飛ばし、脚で踏みつけ、鼠を狩っていく。
丈夫な防寒具のおかげで致命傷は負わないが、明確な殺意と敵意を持って飛び掛かってくる鼠の姿にミオンは神経をすり減らす。
ミオンが武器にしているのは再購入したスコップ。他の雪豹たちも鉄の棒の先に包丁やナイフを括りつけたり、先端を尖らせた即席の槍にしたりと自作の武器で鼠と格闘している。
「雄が五匹に雌が三匹かぁ……十匹は狩りたかったな」
『お疲れ様です、マスター』
タイムリミットまで鼠と格闘して、合計十匹鼠を狩る。
雄よりも雌の方が報酬が良く、狩った雌が妊娠していた場合さらにボーナスが付く。
雌を狩れば種を増やすことが難しくなるので、ラットスレイヤーの人達も優先的に雌を狩り、コロニーと呼ばれる巣を見つければ嬉々として武器を振り回していた。
「死骸は持ち帰りでいいんだな? 変な所に捨てるなよ」
鼠狩りに参加した雪豹の大半は自分が狩った鼠の死骸を持ち帰る。
この凍てついた世界、プラント食料すら手に入れるのが難しい貧民たちにとって鼠は貴重な蛋白源であり、煮てよし焼いてよし、骨も鼠骨スープとして人気で屋台では鼠肉の串焼きやスープが売られている。
ミオンも鼠狩りの依頼を受ける際にギルド職員から鼠の死骸を買い取る店を教えられており、死骸を持ち帰り、精肉店に売りに行く。
買取時に職員から紹介されたと必ず伝えるようにと、ギルド職員からしつこく言われたことから何らかの取引があったと想像できる。
屋台街の中にある精肉店の店前には鼠狩りを終えたと思われる雪豹たちが並んでおり、鼠の死骸を売る。
「おいおい、こんなぐちゃぐちゃのやつ買い取れないぞ」
ミオンが買取待ちの列に並んでいると前方でトラブルが起きた。
何事かと列から覗くと、鈍器で何度も叩きつぶして原形の留めていないぐちゃぐちゃの鼠を売ろうとして、店主に断られている雪豹がいた。
雪豹は店主から買い取り拒否されてもあれこれ理由をつけてぐちゃぐちゃの鼠の死骸を買い取らせようと粘る。
「あーあ、馬鹿だね~……二度と買い取ってもらえなくなるぞ」
「そうなんです?」
ミオンの前にいた中年の雪豹が揉めてる現場を見てそう呟き、呟きが聞こえたミオンが前にいた中年の雪豹に声をかける。
「下手に揉めるとな……今後買取屋台側から買い取り拒否されたり、話が回って屋台で飯が食えなくなったりな」
ミオンに声をかけられた中年の雪豹はそう言って店主といちゃもんをつけてる雪豹をよく見てなという。
「おい、誰かこいつ〆てくれ! 肉の買い取りとおまけで焼き鼠串一本付けてやる!」
しつこく食い下がる雪豹に業を煮やした店主が並んでいる雪豹たちに声をかける。
報酬に釣られ、トラブルで順番待ちが滞ってイライラしていた雪豹たちがいちゃもんをつけていた雪豹を寄ってたかって袋叩きにする。
いちゃもんをつけていた雪豹はボロボロになり、鼠狩り用の武器や今日の報酬を奪われて路地に投げ捨てられた。
「欲張る場面と欲張ってはいけない場面を読み違えると結果としてあんな感じで大損になるぜ」
中年の雪豹はそういうと自分の番になったのかミオンに頑張れよと声をかけて店主に鼠の死骸を渡していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます