第33話 昇級
「遺跡に潜る時より身の危険を感じたよ……」
退院したミオンは先ほどまで入院していた病院を見上げてため息をつきながら呟く。
担当医が事あるごとに義体換装とドリルの素晴らしさを勧めてきて、眠るのも一苦労だった。
唯一の救いはナースと他のドクターは常識人で、何かと守ってもらえた。
外聞が悪いのか、ドリルドクターの事を周囲に広めないことを条件に治療費の大幅値下げをしてもらった。
『マスター、私個人としては義体になっていただければ、おはようからおはようまでマスターを見守ることができますし、他にも———』
「当分義体になる予定はないかな……制限が厳しいし、メンテナンス代やサイボーグ鬱とか怖いし」
退院と同時に装備やPDAも戻ってきてナビィと再会すると、ミオンは病院での出来事を話す。
ナビィは義体になるメリットを説明するが、ミオンはその気はないと答える。
都市には義体に関する厳しい法律があり、体内に入れる機械の数や出力、増加筋肉の筋肉量など細かい規定がある。
ドリルドクターが提示した完全義体のメンテナンス代は目玉が飛び出るほどだったし、サイボーグ鬱と言う全身義体に体を変えることで発症する精神病患者が凄惨な事件を起こしたことがあり、ミオンは義体に関しては二の足を踏んでいる。
『マスター、この後の予定は?』
「雪豹ギルドから呼ばれてる」
退院したら雪豹ギルドに来るようにと連絡を受けていたミオンはギルドへと向かう。
雪豹ギルド内は早朝の雪堀や遺跡潜り予定の雪豹たちの送迎を終えたばかりで閑散としていた。
ギルドの受付へと向かうと、いつもなら女性の受付印がいるはずなのに、スキンヘッドに眼帯、片腕がサイボーグの中年男性が窓口のテーブルに足を乗せて船をこぎながら女性の裸の写真が載った雑誌を読んでいた。
「あん? なんか用か?」
「ええっと……受付の人ですか?」
ミオンの視線に気づいた中年男性は雑誌を閉じてミオンに声をかけてくる。
ミオンが不安げに受付担当と聞くと、中年男性はぽかんとした後、椅子から転げ落ちるほどゲラゲラ笑っていた。
「おまたせしま……どうしたんですかっ!?」
職員エリアから受付の制服を着た女性が書類を持って出てくると、床をバンバン叩きながら笑い転げている中年男性を見てぎょっとしている。
「ヒー、ヒー……いやーわりぃわりぃ、このガキのセリフがツボっちまって……」
「そうだったんですか……こちらが書類になります」
中年男性は落ち着いてきたのか呼吸を整えて受付の女性に状況を説明する。
受付の女性は何処が面白かったのだろうと首を傾げながら中年男性に書類を渡す。
「今度は書類失くさないでくださいね。再申請は手間なんですから」
「悪かったな。このガキも用事みたいだぜ」
「ええっと……退院したら来るように言われたんですけど」
急に話を振られて、ミオンは戸惑いながらギルド認証を提示する。
「なんだ、Hランクか……」
「ミオン様ですね……おめでとうございます。本日よりあなたはGランクにランクアップです」
「へ?」
中年男性が横から覗き込んでミオンのランクがHであることを確認すると、興味を失ったように帰ろうとする。
受付の女性はミオンのギルド認証を確認してパソコン操作するとランクアップしたことを報告してくる。
いきなりランクアップしたことにミオンは頭がついていかず、きょとんとした顔で間の抜けた声を漏らした。
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