第15話 思惑
「リーダー、Hランクなんて役立たず拾ってどうするんです?」
ミオンが去った後、眼鏡の女性が不服そうな顔でリーダーに声をかけてくる。
「ん~、あいつは化けると思ったから唾つけておこうかと思ってな」
「たかが孤児院出身のHランクがですか?」
リーダーはミオンが座っていた椅子を見つめながら、拾った理由を答える。
眼鏡の女性はまだ納得いかないのか、ミオンの荒を探そうとランクや出自を口にする。
「あたいらだって生まれて最初からAランクじゃなかっただろ? 血反吐はいて、仲間を犠牲にして、ここまで登ってきたんだろう? それにメンバーの中には孤児出身で当初はHランクだった奴なんて雪玉投げれば当たるほどいるぜ」
「それはっ……そうですけど……」
自分達のチームの出発点を口にされると眼鏡の女性は図星を突かれたように口ごもる。
「なあ、もしお前が雪豹になって一週間も経っていない、装備もまままらない時期に、ミオンと同じ目に会ったらどうする?」
「雪堀中に遺跡に落ちたら……ですか? 銃を持っていたら多分自害しています」
リーダーは煙草を取り出すと、火をつけて一服しながら、眼鏡の女性に問う。
眼鏡の女性は調書を見直して、ミオンが陥った状況を頭の中で考えると、そう答える。
「たいていの雪豹なら自害するか、泣きわめいて発狂して……サーマルエナジーが尽きて凍死するだろうな。だがミオンはどうだ? 諦めずに遺跡を探索し、ライドメタルを見つけて地上に脱出した。あいつは生きることを諦めなかった」
「………」
リーダーは紫煙を吐きながら、そう呟く。
眼鏡の女性は副流煙から逃れるように反対側に移動する。
「それだけじゃない。カラクリはわからないが、あいつは脱出した場所からフロストシティの方角を理解していた。ルートを調べていたメンバーが言っていたけど、サーマルエナジーが尽きる前にフロストシティに辿り着ける可能性は大いにあったと言ってたぜ」
「……つまり、彼は有象無象のHランク雪豹じゃないと?」
リーダーは一つの報告書を取り出し、眼鏡の女性に手渡す。
そこにはミオンの進行ルートとライドメタルの速度からフロストシティに辿り着ける確率を試算した報告書だった。
「あたしはね、大成する雪豹にはいくつかの資質が必要だと思っている。一つは最後まで生き延びることを諦めない心、そしてもう一つは運。あの子は最低でもその二つを持っている」
「……そうですね。遺跡に落ちて怪我を負うどころか、稼働可能なライドメタルを見つけて地上に脱出できていますし、十二分に都市に戻れる可能性もあった」
「運よく帰還途中のあたしらに拾われた。まっ、他の資質は分からないけど、運は強いと思うよ、あの子は」
リーダーは一本目の煙草を吸いつくすと、二本目を口に咥えようとする。
「駄目ですよ」
「おいおい、帰ってきたんだから大目に見てくれよ」
それを妨害するように眼鏡の女性が煙草を取り上げる。
「駄目です。私、ヤニ臭い人とキスする趣向は持ち合わせてないので」
「へいへい……」
そういって二人はどこかへ消えていった。
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