第11話 脱出


「よっ! ほっ! おっととと!?」

『無理にバランスを取ろうとせず、機体のバランサーに身を任せてください』


 ミオンは工事用ライドメタルT-881に搭乗し、ナビのレクチャーを受けながら操縦訓練を行う。

 まるで小さな子供が初めて歩き始めたようによちよちとした歩きでライドメタルが動き、躓きそうになってミオンは慌てふためく。


「む、難しいなあ……」

『軍用と比べたら難易度はかなり楽ですよ』


 ガチャコン、ガチャコンと重厚な音を響かせて工事現場内を歩くライドメタル。


「あ、なんか動かし方わかってきたかも」

『だいぶスムーズに動くようになってきましたね。次は曲がる時に足を止めずに曲がれるようになりましょう』


 30分ほど訓練するとコツがわかってきたのか、ミオンは通常歩行が行えるようになってきた。

 ただ……ナビィが言うように、曲がる時はいちいち足を止めてから、曲がる方向に機体の向きを変えてから移動している。


『だいたい操縦には慣れてきたようですね。そろそろ脱出しましょうか』

「えーっと、この坂道を登っていけばいいんだよね」


 必要最低限ライドメタルを動かせるようになれば、ミオンとナビィは遺跡からの脱出を試みる。

 地上から工事現場まで機材などを運ぶ搬入路の坂道をライドメタルで登りながら地上を目指す。


「解体出来たらスクラップとして売れそうなものがいっぱいあるなあ」

『今は脱出だけを考えてください』


 搬入路を上っていくと、所々に放棄された工事用車両や機材などがライドメタルの工業用大型ライトに照らされる。


ミオンがそれを持ち帰ることができればと皮算用を弾けば、ナビィが釘を刺してくる。


「シャッターが閉まっている」

『右側のシャフトにメンテナンスハッチがあるはずです』


 ミオンはライドメタルから降りると、メンテナンスハッチを探し始める。


「これかな?」

『それです。コードを繋げてください』


 カモフラージュされたメンテナンスハッチを見つけると蓋を開けて中を確認する。

 ハッチの中には無数の装置とモジュラージャックがあり、その一つにナビィのPDAのコードを差し込む。


 PDAの画面に高速で数字が現れ、パスコードをハッキングする。


『シャッターを開けます。雪が流れ込んでくる可能性があるのでライドメタルごと脇に避難してください』

「わかった」


 シャッターの解除パスをハッキングしたナビィはミオンが避難したのを確認してからシャッターを上げる。


 どれだけの年月動いていなかったのか、錆びた歯車同士を強引に動かしたような不快な音と共に徐々にシャッターが上がっていき、洪水のようにシャッターが開いた場所から雪が搬入路へ流れ込んでいく。


「あー……車両が……機材が……」

『後日掘り起こしましょう』


 放置されていた機材や車両が雪崩に飲まれていくのを見てミオンは悲痛な声を漏らす。


『雪がすべて流れていったおかげで外に出れます。夜が明けたら移動しましょう』

「何とか地上に戻れたけど、今度は都市まで行かないといけないんだよなあ……」


 シャッターの外は地上に繋がっていた。

 ただ……空は暗く、太陽はとっくの昔に落ちていた。

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