第10話 遺跡
『マスター! マスター!!』
「う……ん……ここは?」
ミオンはナビィの呼びかけで意識を取り戻し、周囲を見る。
『おそらく地下の立体駐車場です。怪我はありませんか?』
「……骨は折れてないし、脚もくじいてない……それほど高い場所から落ちたわけでもなく、下も雪だったおかげで助かったみたいだ」
ミオンは体の調子を確認した後、上を見上げればぽっかり空いた穴から空が見える。
「あそこから戻るのは何か道具がないと無理だね……」
『周辺を調べましょう』
穴を見上げれば、何か道具がないと地上に戻るのは難しそうな高さだった。
「くそっ! 買ったばっかりのシャベルがないや……」
周囲を見回せばシャベルが無くなっていることに気づく。
勝った翌日に紛失したことにミオンはへこみそうになるが、今は生きて地上に戻ることを最優先しようと気持ちを切り替える。
「車は……動かせそうにないな……でも、ばらせばスクラップとして売れそうだけど……」
『専門道具はありませんし、まずは地上への帰還ルートを探しませんと』
駐車場跡地にある車両は錆びていたり、老朽化で崩落した瓦礫に埋もれていた。
「よし、明かり確保」
比較的無事な車両を調べると鍵が開いており、車内から緊急時用の手回し充電式の懐中電灯が見つかる。ミオンが試しにクランクを回してスイッチを入れると電灯が付いた、
「ここは……」
『オフィスエリアのようですね』
立体駐車場の空いてるドアを開けると、細長い通路と両サイドに商社名のパネルが付いた扉が並ぶ。
「荒らされてる? もしかしたら雪豹ギルドが管轄する遺跡かも?」
近くの扉を開けて中を覗くと酷く散乱した事務所だった。
荒らされてるといっても、動物が暴れたとかではなく、散乱した事務用品の壊れ方、開かれた引き出しやロッカーからして人の手で荒らされたことが分かる。
『開いてる引き出しの上にも埃が積みあがっています。人が来たのはだいぶ昔でしょう』
「……人が来たというなら出入り口がどこかにあるはず」
事務所を出てミオンはオフィスエリアの階段を上り、地上を目指す。
「駄目だ……雪で埋もれてる」
『他のルートを探しましょう』
本来なら屋上に当たる出入り口のドアは雪で押しつぶされて埋まっていた。
踵を返し、ミオンは移動できるエリアを虱潰しに探索していく。
ほとんどのルートは防火シャッターが降りていたり、瓦礫や雪で埋もれていたりした。
「ここは?」
『ビル警備室のようですね。マスター、そちらの機材にコードを差し込んでください』
そんな中、開いてるドアを開けると、警備室に辿り着く。
ナビィに言われるがままに警備室にある用途不明の機材にコードを繋ぐと、ブゥンと起動音が響き、施設内に明りが付く。
『予備電源が生きていました。これからビル全体を探索します……探索完了。拡張工事用のエリアがあり、そこから地上に出られる可能性があります』
「ほんとう!?」
ナビィがビル施設を掌握し、予備電源を起動させて明かりをつけ、脱出ルートを見つける。
『ARゴーグルにルートを提示します』
「君と出会えてよかったよ! ありがとう、ナビィ!!」
『私もマスターに会えてよかったです。貴方と出会わなければ、私は製造されて起動もされずに朽ち果てる運命だったのですから』
脱出ルートがARゴーグルに表示されると、ミオンはナビィに礼を言いながら走り出す。
拡張工事エリアに辿り着くと、打ちっぱなしのコンクリートの壁の通路が続いており、徐々に通路の幅が広がっていく。
工事現場に辿り着くと、作業用の工具などが放置されたままだった。
おそらく、戦争が始まって道具とか放置したまま避難をしたのだろう。
「これは……」
『民間の工事作業用ライドメタルTー881です』
そんな中、一際目立ったのが一台のライドメタル。黄色と黒の工事カラー塗装され、装甲も何もないむき出しのフレームのみの機体だった。
「こいつが動いたらいいのにな」
『おそらくですが動くと思われます』
ミオンがT-881に近づき、フレームを叩く。
動かせたらと呟いたら、ナビィが動くと答えた。
「え? でも……動かし方とか……」
『操縦方法ならインストールされておりますので、レクチャーできます。試してみますか?』
「そうだね、手ぶらで帰るのはもったいないし」
ミオンはTー881を動かそうとコクピットに乗り込んだ。
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