第3話 フロストシティ
「結局……看板一つしか掘れなかった……」
ミオンは撤収時間ギリギリまで雪堀をやって、戦果は看板の残骸一つ。
「はぁ……輸送代にサーマル代抜いて今夜の宿と夕食代にはなっただけましだと思うか」
雪豹たちを統括するギルドを出てミオンは握り締めた紙幣を見る。
採掘現場までの輸送費、防寒具に使うサーマルエナジーの補充代金、そういった諸経費を抜いて残ったお金が今日の労働の対価だ。
雪豹の中には雪を掘って穴を開けるだけで何も得られなかった人、雪の中で眠るミュータントを掘り起こして殺される人、採掘ポイントを巡って揉めて殺されたりした人と比べれば実入りがあっただけましだろう。
ミオンはギルドを後にして簡易宿泊所へと向かう。
遠くを見上げればかつてはかつてはマイアミ市と呼ばれ、今はフロストシティと呼ばれる都市の生命線である巨大なプラントタワーが見えた。
プラントタワー、炭素を他の物質に変換することができる機械で、このプラントのおかげで都市の電気ガス水道とライフラインとインフラを賄っているという。
このプラントがなければ人類は遠い昔に凍死して全滅していたといわれている。
プラントを中心に円を描くように五つの壁が設けられ、中心部へ行くほど都市環境と治安はよく、外部へ行くほど環境と治安は悪い。
ミオンがいる場所は第五エリア、ぎりぎり都市内部に当たる場所で治安も環境も最低限だ。
都市を温めるための蒸気配管があちらこちらに張り巡らされ、蒸気が噴き出している。吹き出し口エリアには人や家屋が集まり、ごちゃごちゃしている。
都市の外にも人々はすんでいるが、壁の外は都市の管轄外で恩恵も何も受けられない。
蒸気配管もなく、凍死のリスクと隣り合わせで廃材などを燃やしたり、鼠タイプのミュータントを殺して雀の涙ほどのサーマルエナジーを回収して、暖房器具に割り当てたりして暖を取っている。
夕食は屋台街でとることにした。
店舗型の店だと暖房代や席料や蒸留水代など追加であれこれ請求されることがある。
何の肉かわからない串焼きと味の薄いスープを飲んで腹を膨らませて体を温めると、ミオンは今日の宿に向かう。
今日の宿は木賃宿と呼ばれる素泊まり大部屋雑魚寝の宿泊施設で、プライベート空間が欲しければ紐と布を買って囲いを作るか、割高の個室料金を支払うタイプだ。
(くっせ……)
受付で料金を支払って雑魚寝部屋に足を踏み入れると、汗やら体臭やら混ざり合った匂いが充満していた。
先客が何人かいてサイコロやトランプで賭け事をしていたり、原材料のわからないアルコール飲料を飲んで酔っていたりと、各々思い思いに過ごしている。
ミオンは周囲に見向きもせず、適当なスペースを確保して横になってさっさと寝る。明日も雪堀をして生活費を稼がないといけないのだから。
孤児院時代に夢見た一攫千金の雪豹と今の自分のギャップにうんざりしながら。
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