592.【後日談7】ご乱心
・魔獣幹部
我々ネコ科魔獣幹部は、魔獣都市マタタビの運営を国から任せられているのですぞ。
そんな我々はネコ科魔獣の憧れの的。
尊敬され、チヤホヤされ、我々の座に就きたいというネコ科魔獣も多数。
しかし、我々魔獣幹部以上に注目を集める偉大なるお方!
それが肉球魔王様!
世界最強の実力の持ち主。
前国王の前でも堂々とした態度。
おまけに博識で博愛。
※大いに主観が入っています。
そんな偉大な肉球魔王様ですが、たまにご乱心なさる。
その時は我々魔獣幹部、肉球魔王様の名誉が傷つかないよう、全力で止めますぞ。
ある日の昼。中央広場にて。
肉球魔王様が人を集めて、とんでもない物を試飲させようとしている。
「んなー(やめてくだされ肉球魔王様! ネズミの糞のスープを人間に飲ませようなど!)」
「にゃー(何を言ってるんだ。これはコーヒー豆だ。
コピ・ルアクって聞いたことない? ジャコウネコの……)」
ジャコウネコ魔獣の糞のスープをよく分からない理屈で人間に飲ませようとする肉球魔王様。
スープは没収しましたぞ。
やれやれ、人間が腹を壊したらどうするつもりなのか。
集まった人間達には、代わりにカツオブシスープを振舞いましたぞ。
肉球魔王様のご乱心には困ったものですな。
◇ ◇ ◇ ◇
ある日の昼。学校区画の調理室にて。
肉球魔王様が、とっておきのレシピを思い出したぞ、と調理をするのですが。
「んなう(やめてくだされ肉球魔王様! 魚の頭とパイ生地は人間的に食べ合わせが悪く、美味しくないですぞ!)」
「にゃー(うるせぇ、これは立派な英国料理だぞ。やがて雑貨屋クローバーのカフェコーナーの看板メニューとなるだろう)」
魚の頭で星の形を模した、おぞましい見た目のパイを作ろうとしている肉球魔王様。
我々魔獣幹部の制止も
幸い、今のところ一部の物好きな人間しか注文していないみたいですな。
肉球魔王様は、納得いかないご様子でしたが。
◇ ◇ ◇ ◇
夕方。椅子に座って談話に夢中になっている婦人の足元へ、肉球魔王様が駆け寄る。
何をなさるつもりなのか。
すぽっ。
婦人のスカートの中に、肉球魔王様が入ってしまわれた。
肉球魔王様の真似をして、近くの子どもネコ科魔獣数体もニュルンとスカートの中に入り込む。
「んなお(やめてくだされ肉球魔王様! 人間のスカートの中に入っていいのは子どもまでですぞ!)」
「にゃー(たとえ火の中水の中……)」
ブツブツと意味の分からない言葉を言っていた肉球魔王様をカプッと噛んで、引きずり出しましたぞ。
肉球魔王様はもう少しデリカシーを学ばなければなりませんな。
◇ ◇ ◇ ◇
夜。ある民家の前にて。
靴などが並んでいる棚をじーっと眺める肉球魔王様。
やがて、靴の1つを前足でツンツンつく。
そして決心したようにその靴を引っ張り出し、クンクン臭いを嗅ぎ、ポカーンと口を開ける。
表情が戻った後、何を思ったのか靴を咥え走り出す。
「んなーう(やめてくだされ肉球魔王様! 人の家の靴を盗み出すのは!)」
「にゃー(ちょっと借りてるだけ、ちょっと借りてるだけだから! 遊んだら返すから!)」
見苦しい言い訳をする肉球魔王様から、靴を没収して元の位置に戻しましたぞ。
まったく、我々の気も知らずに肉球魔王様は~!
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