591.【後日談7】金の亡者





胸糞注意。








・???視点



気が付くと、知らない場所に居た。


薄暗い場所で、フカフカな椅子が沢山ある。

その場所は扇状で坂になっていて、一番下には真っ白で巨大な掛け軸が掛けられている。



「こっちじゃ」



この場所に居るもう一人の存在、白髪の人間の老婆が手招きをする。

僕は椅子から椅子へ飛び移り、老婆の元へとテクテク歩く。


老婆の隣の椅子に、ひょいと乗る。



「なにぶん、ワシも慣れてなくての。

まず、お主の生前の様子を見せてもらおうかの」



老婆がひょいと手を振ると、掛け軸に絵が映し出された!

しかも絵は動く! 凄い!



◇ ◇ ◇ ◇



・スクリーンに映し出された映像



木造建築の魚屋の家。

1匹の猫が、男から魚を貰っていた。

猫は美味しそうに唸りながら魚を食べている。



「うんみゅう(おいしい)」


「ありがとうな□●%L。

お前のおかげで、大事な商売道具を齧るネズミは家から居なくなった。

余った小魚だが、こんなもので良ければたくさんお食べ」



ザッ! ザザッ!

場面は変わる。


先ほどの男が病で伏しており、そばで猫が心配そうに見ている。



「済まねぇな□●%L、悪いやつに騙されて、金が無くなっちまった。

商売も出来ず、食う物もろくに無くてこの有り様だ。

俺のことはいいから、お前はどこかへお行き」



ザッ! ザザッ!

場面は変わる。



「うみゅう(お金、お金……これだ)」



先ほどの猫は、質屋の家に忍び込み、小判を咥えて盗む。


そしてその小判を、伏して眠っている男の枕元に置いた。



ザッ! ザザッ!

場面は変わる。



「おぉ、誰だか知らないが、俺に恵んでくださったようだ。

ありがたや、ありがたや」



男が喜んでいる様子を見て、猫も嬉しくなった。

男はその金で食べ物を買うことが出来、栄養失調から回復した。



ザッ! ザザッ!

場面は変わる。


猫は、質屋の家に再度忍び込み、小判を咥える。



「うんみゅう(お金さえあれば、笑顔になれる! お金、お金、お金……お金さえあれば)」


「見つけた! お前が盗人だったのか!」



ドンッ! 猫は木の棒で、奉公人の男に殴られる。



「盗人を見つけて始末したとなれば、ご主人からご褒美がもらえるぜ!

死ねや畜生がァ!」



ズドッ! ドガッ!

大きな音を聞きつけ、中年の男がやって来る。



「騒がしい、何事だ!」


「あぁ、ご主人。コイツですよ、この前の晩に盗みを働いたのは」


「これは……猫?」


「まったく、金の亡者ですよ。これだけ殴られても小判を離さないのだから」


「馬鹿者! 猫は商売の神様だぞ! あぁ罰当たりな……お前、呪われるぞ……」



猫は亡くなった。しばらくして奉公人の男は、謎の病死を遂げたという。


後日、この一連の出来事が町の瓦版(かわらばん)で取り上げられた。

瓦版を読んだ魚屋の男が、質屋に向かい、猫が盗んだ金を返しに行った。


だが質屋の主人は、正直者の魚屋の男に免じて、金は受け取らなかった。

それどころか主人は男へ、猫が2度目に盗もうとした金を、猫の供養費として渡した。


その様子も瓦版に取り上げられ、その逸話は商人同士の飲みの席で、酒のつまみになるのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



・???視点



掛け軸の絵が止まると、老婆がこちらを向いて言う。



「さて、お主はこれから、どこか遠くの世界で生まれ変わることになるじゃろう。

お主の生前の頑張りに心打たれたから、ワシから何かプレゼントしてやるとするかの」


「うみゅう(お金をください)」


「ふぅむ? それなら、錬金術スキルはどうかの?

無限に金(きん)を生み出すことが出来るのじゃが」


「うんみゅ(それください)」


「なら決まりじゃの。スキル付与。よし、行ってくるがよい」



老婆が手を一振りすると、周りの景色が乱れ、気が付くと知らない草原に居た。








100年後。



「にゃー(へぇ! お前錬金術が使えるのか!

ネコ科魔獣のための魔獣都市をこれから作る予定なんだが、是非とも手伝ってくれ)」


「うみゅう(いいよ)」


「にゃー(お前の事は何て呼べば良い?)」


「うんみゅう(確か、金の亡者、って言われたような)」


「にゃー(金の亡者? ……それって悪口じゃね? まぁいいか。よろしく、金の亡者)」



僕は魔獣幹部金の亡者として、肉球魔王様にスカウトされたのだった。

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