590.【後日談7】魔の通り


夜。中央広場にて。

今日も魔獣幹部による会合が行われる。



「んなん(では今日の議題ですぞ。

まずは中央都市チザンの、新国王ゴルン政権の方針が決まったとのことですな。

詳細は配布している資料に書いてありますぞ。赤字が前政権から変更された内容ですぞ)」



と人間サイズの茶トラ白のネコ科魔獣幹部、火車が言いつつ、後ろ足で首をカキカキする。



「にゃー(中央都市での錬金術発展を掲げているな)」


「うみゅう(錬金術工房からの引き抜きに注意)」



金色のトラ柄な普通猫サイズのネコ科魔獣、金の亡者が、小判をホールドしてケリケリしつつ言う。



「アァー……」『あんにゃう(アレクサンドラ研究所の動向は、今のところ中央都市の技術向上に加担する気は無さそう)』



二足歩行の薄皮薄毛な緑色毛皮ネコ科魔獣幹部、ゾンビキャットは首輪型魔道具で文章を打ち、ボイスロイド(ネコ科魔獣音声)に読ませる。



「他に、これといって注意すべき点は見当たらないねぇ」



ピンクの着物姿の大人の女性に化けているネコ科魔獣幹部、化け猫が言う。

化け猫の長い黒髪を、近くのネコ科魔獣がつついたりかじったりして遊んでる。



「ガォオ(俺からは特に言うことは無いな)」



羽の生えたコンテナサイズの大型サバ白ネコ科魔獣、キメラがあくびをする。

近くに居たネコ科魔獣がびっくりしてフシャーする。



「んなう(では次の議題、こちらが本命ですぞ)」


「うみゅう(東2区のこの通りを中心に生活しているネコ科魔獣の所持マタタビが、他の場所に住んでいるネコ科魔獣に比べ低い。

大鍋商会の調べで判明した)」


「にゃー(そうなのか)」



ベーシックインカムお小遣い制にしているのに、地域差が生じるのか。

興味深いな。



「で、調査の結果だけど、この通りを通ってしまうと無駄遣いしてしまう。

通称“魔の通り”って呼ばれているみたいだねぇ」


「んなう(この通りでは、他の通りと違い、匂いを外に送る魔道具を使っているみたいですぞ。

なのでその匂いにつられて、つい店に入ってしまうケースが多発しているとのことですな)」



前世でもよくあった手法だ。

ショッピングモールなんかでパン屋とかコーヒーショップなんかの前を通ると、いい香りがしてくるアレ。

つい寄ってしまうんだよなー。



「にゃー(それが何か問題か?)」


「うみゅう(問題かどうかは、実際にボクらが現地調査する)」


「聞いた話だけだと、分かんないからねぇ」


「ガルル(俺は飛んで空から調査するぜ!)」


「アァー……」『あーにゃ(この通り付近に住んでいる魔獣が、貯金出来ない割合が高い。

場合によっては、匂いを漏らすのを禁止しなければならない)』


「んなお(では明日、現地で調査ですぞ!)」



こうして今日の会合は終わった。



◇ ◇ ◇ ◇



翌日のお昼。東2区の通りの入り口にて。

魔獣幹部達が集まった。今日の化け猫は、黒と茶色のまだらのサビ模様の猫の姿だ。



「んなー(これより現地調査を行いますぞ)」


「うみゅう(調査方法は、この通りを通りきるまで無駄遣いしないこと)」


「無駄遣いの定義は、2000マタタビ以上使用した場合、ってことにしようかねぇ」


「ガォ(俺は上から見守るぜ!)」


「アァー……開……始」



魔獣幹部達が、一斉に通りを歩き始める。

体の大きなキメラは通りを通れないので、屋根の上をフワフワ飛んでいる。


俺もせっかくなので、後ろをついていく。

2000マタタビは日本円で1000円程度相当だ。

すぐ使い切ってしまうと思うけどな。


お、ここはピザ屋か。

チーズの香りが良いよなー。

ネコ科魔獣は塩分が駄目だからチーズ食べられないけど、この匂いは好きなのだ。


なので、ネコ科魔獣の場合は店内ではチーズの匂いを楽しみながら、お肉を食べることが出来る。

もちろん人間はピザを食べることが出来る。



「うんみゅう(牛鬼肉のサイコロステーキください)」


「まぁ(はいよー)」



さっそく金の亡者が店内に入って注文。3000マタタビ消費だ。



「にゃー(金の亡者、アウトー!)」



ででーん。俺は首輪型PCから効果音を鳴らす。


サッと影から現れた覆面オシオキ隊のヨツバが、金の亡者の顔をシャンプータオルでゴッシゴシ拭く。



「うみゅうううう(ぎゃー!?)」


「んなー(何て恐ろしいオシオキでしょう)」



現地調査の言い出しっぺが、いきなり堕ちるんじゃない。



◇ ◇ ◇ ◇



魔獣都市マタタビでは、マタタビは劇薬扱いされている。

資格のある者しか扱ってはならない。

副作用で呼吸出来なくなったネコ科魔獣がたまーに病院に送られる。


そんなマタタビを厳格な管理の元、心ゆくまで楽しむ事が出来るエステ、マタタビエステ。

店からほのかに漂ってくるその香りは、悪魔の誘いそのもの。

一度お店にお世話になると、病みつきになるという。


魔獣幹部達は、フラフラ~っと店の中に吸い込まれた。

キメラは屋根の上から覗き込むような姿勢で、顔をお店の2階の窓に押し付ける



「にゃー(全員アウトー!)」



ででーん。俺は首輪型PCから効果音を鳴らす。


サッと影から現れた覆面オシオキ隊のヨツバが、全員の首根っこに、ダニ防止用の薬品をぶっかける。



「ガォォ!(ぎゃー冷たーい!?)」


「んなう(おぉう、ブルリ)」


「これは油断したねぇ」


「うみゅ(何て非道な)」


「アァー……シュン」



まったく、全員、弛(たる)んでいるんじゃないのか。

もっと魔獣幹部としての自覚をだな。



◇ ◇ ◇ ◇



魔の通りを抜け、調査が終わった。


結果、魔獣幹部達の出費平均1万6000マタタビ。

見事に全員、無駄遣いをしてしまった。


魔獣幹部達は、顔を濡らされ、腹をワッシャワシャされ、薬品をぶっかけられ、爪を切られたりして、しょんぼりしている。



「にゃー(今回の結果分かったことだが、ネコ科魔獣は基本的に我慢が出来ない。

本能優先で行動してしまうので、お店の誘惑に勝てない。

中でも、魔の通りは本能に訴えかけるような誘惑が非常に多い)」


「んなう(思い知りましたぞ……)」


「うみゅう(今後も注意しつつ、都市の運営に悪影響が出そうな場合は、ある程度の規制もやむなし)」


「ガウ(エステ良かったなぁ!)」


「アァー……満……腹」


「ま、今のところは何も規制の必要は無いかねぇ」



ガラガラガラ。

魔の通りの店の1つが開いた。夕方開店のお店か。


ふーむ、何、昆虫焼き、だと……!

エビと鶏肉の間のような、芳醇ほうじゅんな香りがする。


俺はテクテク店のそばへと歩く。

ほほーう、魔獣都市マタタビの近辺で見かけない虫をわざわざ仕入れているのか。

これはなかなか美味しそうだ。



「にゃー(どれ、1つ、いや5つほど購入するとしよう)」


「なぁ(まいどあり!)」



ででーん。どこからともなく効果音が鳴る。

ヨツバが鳴らしたっぽい。



「「「うみゅんなガォアァー(肉球魔王様アウトー!)だねぇ!」」」


「にゃー(ん? ちょっと待て、調査は終わりだろう。というか俺は無関け、おいヨツバ離せ、何をするだァー!?)」



俺はヨツバにシャンプータオルで全身を拭かれ、爪をカットされたのだった。酷い。

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