589.【後日談7】元気いっぱい



昼、学校区画のとある教室にて。

俺は教壇の上に登り、生まれて半月にも満たない子どもネコ科魔獣の生徒達を見渡す。

今日の俺は非常勤講師だ。


講師の1体が産休を取っているので、今日の代わりの講師を決めることになったのだが。

厳正なあみだくじの結果、俺が講師をすることになった。


今日の授業はネコ科言語を喋る練習だ。

俺が例文を喋り、それを繰り返してもらう。



「にゃー(私の趣味は、壁で爪とぎすることです。ハイ!)」


「みぃなんまー(私の趣味は、壁で爪とぎすることです。ハイ!)」


「にゃー(ハイは要らんよー)」


「みゃんなまぅ(ハイは要らんよー)」


「にゃー(要らんっちゅーねん)」


「みぁなまー(要らんっちゅーねん)」



結局、この日はこんな感じでグダグタになって終わった。

あれで良かったのだろうか?

う~む、教育って難しい。



◇ ◇ ◇ ◇



授業後、お迎えに来た親へ子どもネコ科魔獣を引き渡し終えて、ようやく一息。


俺は外に出て、木に登る。

太い枝に飛び移り、腰掛けて首輪型PCを起動。


先ほどの子達の発語の発達段階の評価、そして課題、宿題のデータを作り始めた。

これらは後で親に渡す予定だ。


シャカシャカシャカ。

木に誰か登って来た。



「みー(わーい)」


「にゃー(危ないぞ)」



黒い毛皮の子どもネコ科魔獣が木に爪を立てて、俺の居る所より上へスルスルと登っていく。

落っこちないか、見ててヒヤヒヤするぞ。



「にゃー(さっきの生徒だな。お母さんはどうした?)」


「みぅ(いえーい)」



駄目だ、会話が出来ない。

まだ頭が幼いせいか。


仕方ないな。魔獣都市マタタビにある猫像から送られてくる映像データから解析。

ふむ、この子の母親は昼寝中、と。


ズルリ。

子どもネコ科魔獣が足(というか爪)を滑らせ、俺の所に落ちてくる。


ペトッ。

着地はあまり上手く出来なかったようだ。

足が少しジーンとするのだろう。



「みー(えーん、えーん)」


「にゃー(俺にどうしろと)」



とりあえずケガはしていないようなので、軽く【ヒール】をかけてやる。


痛みが無くなったからか、子どもネコ科魔獣がテクテク俺の所に歩いてくる。


ぴとっ。俺にくっ付いてきた。



「みぅ(すやー)」


「にゃー(寝ちゃった)」



いわゆる電池切れというやつか。

子どもはパワーはあるけど持久力が無いからな。


その後、眠っている子どもネコ科魔獣をチラチラ見つつ、俺は提出するデータを作成し終える。


そしてこの子を親元に連れていこうかとした所で、母親が慌てて木の根元にやって来た。

昼寝から目が覚めて、子どもが居ないのに気付いたらしい。

子どもの臭いをたどってここに来たようだ。


俺は子どもネコ科魔獣を両前足でそっと抱っこし、飛んでふわりと地面に着地。

母親に渡す。



「み゛ぁあん(うちの子がどうもすみません)」


「にゃー(元気なお子さんで良いことだ)」



母親ネコ科魔獣は眠っていた子どもの首根っこを咥えて、テクテクと連れ帰っていった。


さて、俺は完成したデータを親に渡すか。ピッと送信、完了。


ビクッ。先ほどの母親ネコ科魔獣が、首輪型魔道具からのメール受信画面にビックリして、子どもを落としてしまった。

あちゃ~。子どもが起きて、泣きだした。


親って大変だなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る