588.【後日談7】マッドサイエンティストにゃんこ再び


お昼。森の中の自宅にて。


ガジガジガジ。

俺は段ボール箱に入り、箱をかじっていた。

特に理由は無い。猫の本能に従っているだけだ。


カジガジガジ。

もう満足だ。

俺はかじるのをやめる。


昼ご飯を食べた後だから、眠気が出てくる。

本能に従いお昼寝を開始する。


本能といえば、前世の人間は本能を抑制し過ぎていたように思う。


例えば睡眠。日本は睡眠時間が6時間未満の人が多かったみたいだが。

睡眠時間を削ってまでして、人々は何か得られる物があったのだろうか?


なぜ前世の社会は、睡眠時間を削る生活を強要していたのだろうか?

睡眠不足はパフォーマンスが低下するってのは、研究で分かっていた事なのに?


何でだろうな……スヤァ。



◇ ◇ ◇ ◇



夜。俺は目が覚める。


お尻を突き出し、うーんと伸び、自宅を出る。


今夜は良い星空だ。

たまには四次元ワープを使わず、歩いて魔獣都市マタタビに向かうとしよう。


森を出て、魔獣都市マタタビに向かう途中。



「へっへっへ。ここならサツに見つからないぜ兄貴」


「あぁ。都市の中は厳重な監視体制だが、外はこの通り、監視がザルだ」


「この木箱の罠に肉球魔王様を閉じ込め、奴隷の首輪をはめて、俺達の思い通りにする。

兄貴は天才的な策士だな」



人間の男3人が、獣道の途中に木箱型の魔道具の罠を仕掛け、付近の木に隠れていた。

ヒモを引っ張れば、木箱の蓋が閉まる仕組みだ。


俺の悪意監視網は、一定の条件以下の悪意は引っかからない。

例えば、こんな感じの取るに足らない力の悪意とか。

いちいちこの程度の奴らの相手をしていたら、時間がいくらあっても足りない。


ホムンクルス達も気づいて、慌ててこいつらを処分しようとしたが、制止させた。

別にこいつらは、何か罪を犯した訳じゃないし。

そもそも都市の外は治外法権。何かが起こっても、国家を揺るがすような事でなければ、見逃される。


だが、俺の夜の散歩を邪魔した罪は重い。

彼らがその気なら、俺にも考えがある。


俺は男の1人に、後ろから声をかける。



「にゃー(こんにちは)」


「ん? 茶トラのふくよかな猫……ゲゲッ、肉球魔王様だ!」


「にゃー(この木箱、脆弱化と、スキル使用不可の呪いが掛かってるな。

よっぽどの強い獲物を捕まえる気か?)」


「え、えぇ、まぁそんなところで」


「にゃー(だが、餌が入ってないから、獲物を引っかけるには不十分だな。

よし、俺が餌を分けてやろう)」



自分の体に少し小細工をし、木箱に入って、牛鬼のお肉を置く。




「今だ!」



木箱の蓋が閉じられ、閉じ込められる。


俺と男3人が、閉じ込められた。



「……何!?」


「どういうことだ!」


「な……中にいたのはおれだったァーー」


「にゃー(俺に手出ししなければ、見逃してやったのになぁ。

さて、この箱の呪いは上書きさせてもらった。

箱の中の空間が広くなる代わりに、外部時間で8時間ほど中から出られない呪いだ)」



猫は昔から呪いの象徴だ。

俺はこれでも猫の神。

呪いの専門家でなくても、これくらい出来る。



「にゃー(箱の内部時間は外の100倍遅く流れる。つまり俺達は800時間、この箱から出られなくなる)」


「お、俺達をどうする気だ!?」


「にゃー(なぁに、溜まってた非人道的な実験の実験台になってもらうだけだ。

ちょっと痛かったり怖かったりするかもだが、死なないようにする。

実験の後は解放してやるし、協力してくれた分の給料も渡すし、きちんとメンタルケアにも通わせてやるから安心しろ)」


「メンタルケアって何だ!? メンタルが病むような事するって事か!?」


「にゃー(おっと余計な事を喋ってしまった。さっそく始めるか)」


「ま、まっ、待……うわぁぁあああああああーーーーー!!!?」








外部時間8時間後。

木箱から出ると、外は明るくなっていた。

う~ん、いい朝日。


貴重な実験結果も手に入り、俺はホクホク顔をしていた。

ナチスドイツの科学者もこんな気持ちだったのかもしれないな。


楽しかった。だがこれは危険な楽しさだ。

殺人鬼が人を殺して喜んでいるような危険な感情だ。

自重せねばな。


俺はホムンクルス達に、次に非人道的実験を始めようとしたら止めるようにお願いした。


実験は科学者の本能。油断したらマッドサイエンティストになってしまう。

だから前世では、実験には倫理規定がガッチガチに定められていた。

むやみに動物を実験台に使っちゃ駄目だぞ、みたいな感じで。


バタッ、バタッ、バタッ。

男3人が木箱から出て、地面に倒れる。

体力面でなく、精神面でキツかったらしい。


彼らに研究協力費として1人100万マタタビを渡し、俺は3人を魔獣都市マタタビ内の病院に連れて行った。


都市の住人ではなく外部の人間だったので、治療費は有料。

しかも治るまで1ヶ月の入院治療が必要らしい。ちとやり過ぎたか。


ま、俺を襲った罰として、そこは甘んじて受け入れてもらおう。


治療費は1人60万マタタビ。

これを彼らに請求するのは若干鬼畜っぽく感じたので、治療費は俺が出すことにした。

今回の内容の実験が出来たことを考えれば、安いものだ。



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