585.【後日談6】大魔導士様 その20


・ケンイチ(猫)視点



3日後。今日は魔獣国チザンの新国王ゴルンの即位式。


即位式は王城の広間で、立食パーティ形式でラフに行うらしい。


俺とヒギーは、コカトリスの丸焼きにかぶり付きつつ、即位式を見守る。



「即位の儀の前に、断罪ショーをご覧になってもらいます。

連れてきなさい!」



元ブロン、現在ゴルンが前の舞台に立ち、部下に命じる。


鎖で縛られた羊顔の男が、兵士によって引っ張ってこられた。



「この男、私の父上の参謀だった者ですが、何と父上を毒殺した犯人でした。

ずる賢く証拠を隠滅したようですが、ケンイチさんの【鑑定】によるアカシックレコード参照で、事件の全貌を知る事が出来ました。

念のため魔獣都市マタタビの肉球魔王にも確認しましたが、間違いないようです」


「何だと!?」「ゴルン様……いや、前国王は殺されたのか!?」

「マリスシープ、貴様、前国王様に手をかけたのか!?」

「許さん!」「殺せ!」「どういうことだ!?」「ニャワ(丸焼きうめー)」

「皆さん、まずは国王様の説明を聞きましょう!」



一瞬ザワついたが、ゴルンの言葉を聞くために皆は静まる。



「彼はどうやら事前に数種類の薬を食事に混ぜ、錬金術で体内に毒を生成したようです。

その毒は同じく錬金術で簡単に分解できるため、死体の体内に毒を残さない事が可能です。

父上だけでなく、近衛兵長ラリックマ、総務の黒トド、人面馬、料理人のイタマエゴブリン、兵士の痩せオーク。

彼らも、この男の毒による犠牲者です」


「ラリックマさんは、引退したって聞いたぞ!?」「お前がイタマエゴブリンを殺したのか!」

「何て非道な行い!」「ニャワワ(ヒギー、お前食べすぎ)」「人面馬様、イケメンだったのに」


「元宰相マリスシープ、何か反論はありますか?」


「ふん、何がアカシックレコードだ。

ケンイチや肉球魔王の妄言を信じるとは、情けない。

証拠が残らない毒殺など、あるはずが無いのに」


「そうですか。ところで、このミックスジュース、美味しいですね。

罪のリンゴの果汁が入っているのが特に良い。

マリスシープ、あなたも飲みなさい」



ゴルンがグラスから一口、ジュースを飲み、羊男にも飲ませる。

そして骨付き肉を四次元空間から取り出す。



「このコカトリス肉、味付けに大砂クジラの涙を使っているんですよ。

皆さんのコカトリス肉は味付けをしていませんけど、私のこれは特別です。

さぁマリスシープ、これも食べなさい」


「……!」


「どうしました? 毒は入ってませんよ?」


「き、貴様……!」


「無礼者! 口の聞き方に気を付けろ!」



羊男の尻を、オークの兵士が蹴とばした。



「マリスシープ、あなたが最近、罪のリンゴと大砂クジラの涙を入手した事は分かっています」


「言いがかりだ! それらはただの食材だ! そこらへんに売っていて、ガキでも買える!

私がそれらを入手したから何だというのだ!

そんな食材の食べ合わせで毒が生じて死ぬというのなら、国中で死者が出ているはずだ!」


「おや? これらの食べ合わせで毒が生じるだなんて、一言も言ってませんが?

というか実際、食べるだけでは毒は生じないですよ? ねぇ?

だからマリスシープ、このコカトリス肉を食べなさい。

おい、誰かこの男の口を開けさせろ」


「はっ!」


「おい、何をす、やめ、この……」



羊男の口に、コカトリス肉が詰め込まれる。



「げほ、ごほっ」


「罪のリンゴと大砂クジラの涙の有効成分の一部は体内に蓄積されますが、通常、無害です。

しばらくすれば体内で分解されます。なので毎日一生食べ続けたとしても、何も害は生じないでしょう。

ただし、【魔毒生成】」


「ぐぁぁぁああ!?」



羊男が血を吐き、倒れる。



「錬金術の通りが非常に良いので、他人の体内で錬金術を作用させるには、とても良い媒体となります。

今私がやったように、食べた後すぐに錬金術を施行するか、この男のように毎日少しずつ与えて体内に蓄積させてから施行するかは好みの問題ですが。

【魔毒解除】」


「ぜぇ、ぜぇ……」


「【魔毒生成】で毒を体内に生成、死んだ後【魔毒解除】で毒を分解。

体内に毒は残らず、自然に突然死したように見せる。

マリスシープ、あなたがやった事ですね?」


「し、知らぬ……」


「ふざけんなテメェ!」「親友の敵!」「にゃー(おっと、降りる座標間違えた。ここは中央都市チザンか)」

「この犯罪者!」「腐ってやがるぜ!」



ゴルンが背中の大剣を抜き、羊男の首に刃を当てる。



「大悪党マリスシープ、前国王およびその配下殺害の罪で、この場で断首刑とします。

父上の宰相として長年勤めた、せめてもの情けです。

最期に言い残す事があれば聞きましょう」


「や、やめろ……」


「それが最期の言葉ですか?」


「私は悪くない! ゴルン様が私の言う事を聞かなかったのが悪いのだ!」



ザシュ!



「はぁ……父上……」


「にゃー(最期くらいはせめて『我が心と行動に一点の曇り無し……!』とか言えばいいのに、ダセぇ。さて、俺は帰るか)」



一瞬、肉球魔王が居たような気がしたが、気のせいだった。


僅かな静寂の後。


ワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


歓声と拍手が溢れた。



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(猫)視点



どうにか穂ちゃんの拘束を抜け、俺は命君のダンジョンから魔獣都市マタタビへと帰ってきた。


ひょい、と民家の屋根に飛び乗り、首輪型PCに話しかける。



「にゃー(おいソフ。さっき、俺の飛ぶ場所、いじっただろ)」


『ケンイチの様子を確かめたかったのでな。

トミタ、ケンイチは新国王の宰相になって、中央都市チザンの発展に大いに貢献するだろう。

彼の持ち出したゴーレム、ホムンクルスの構造の知識が、新たな錬金術人形の開発に寄与する。

3年もすれば、中央都市チザンの錬金術レベルが、魔獣都市マタタビに追いつく。

そして人々は彼を、大魔導士様と称えることになる。かつて人間国に存在した天才大魔導士様の再来だ、とな』


「にゃー(それって、そんな凄い事か?

ケンイチ君じゃなくても、出来そうな事だと思うが)」


『事の重大さを理解していないようだなトミタ。

つまり魔獣都市マタタビの錬金術の収入が無くなりかねないということだ。

くくく、貴様の天下も、終わりが見えてきたな』



ソフがそう言うが、そもそも俺は天下を取った覚えは無いんだが。

というか魔獣都市マタタビの運営は魔獣幹部の仕事だし、俺は半分部外者なのだがな。


ま、魔獣都市マタタビの錬金術産業が食われないように気をかけてやるか。

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