583.【後日談6】大魔導士様 その18


・中央都市チザン宰相視点



それは1ヶ月前の事。



ゴルン様が、【予知夢】と【予知回避】スキルを失ってからというもの。


中央都市チザンは失策に次ぐ失策、失策続き。

しかも私の言う事を無視したばかりに生じたものばかり。


ゴルン様は大半の事は、側近の兵士の多数決で決めてしまう。

だが、彼らは学の無い馬鹿ばかり。

何となくであったり、目先の利益にとらわれたりして、物事を決定してしまう。


結果、中央都市チザンは、技術面や統治面、治安面において魔獣都市マタタビに大幅に負けてしまっている。

土地が広く人口が多いから、辛うじて生産面は負けていなかったが、近年はそれも追い越されそうだ。


無能な側近を数人暗殺し、何度も私の息のかかった側近へと入れ替えさせたが。

そいつらも私利私欲に飲まれ、さらにあろうことか私に「暗殺した事をバラされたくなければ、金をよこせ」と脅してきた。

もちろん応じず、綺麗に始末してやった。


かといって、私の息がかかっていない者に側近をやらせても、馬鹿ばかりだからまた同じようになってしまう。

どうすればいいのか。


そして気づいた。

そもそも、ゴルン様が耄碌もうろくなさっているからいけないのだ。

もはやゴルン様は王の座に相応しくない。


未だ未熟な、ゴルン様の息子のブロン様がいらっしゃる。

彼は馬鹿正直者なので、傀儡くぐつにするにはちょうど良い。

「宰相の言う事は絶対守るように」という遺言を偽装しておくとしよう。




ゴルン様の食べる料理に、少しの特殊な錬金素材を混ぜる。

それは知らない間に体内に蓄積するが、何も無ければ無害。


だが、私の合図1つで、毒へと変わり、体を蝕む。

さらに追加の合図で、証拠が綺麗さっぱり無くなる。

十分な量が蓄積するまで、およそ3週間。

念のため、十分量になった後1週間の期間を空ける。





1ヶ月後、寝床から起きないゴルン様に気づいた側近が、ゴルン様が亡くなっていることに気づいた。


さぁ、これからは愚者に邪魔される事の無い、私の時代が始まる。



◇ ◇ ◇ ◇



・ケンイチ(猫)視点



『魔獣国チザンの仲間』は、俺が所属しているクランだ。

そのマスター、ブロンの父親ゴルンが亡くなったらしい。


ブロンは熱い心を持っている、正義感の強い魔獣だ。

翼を生やし、竜鱗で覆われた体を持っている。

悪魔と竜の子どもらしい。


彼とその仲間は大いに泣きわめき、しばらくして、帰らねば、とダンジョンをつことになった。



「短い間でしたが、お世話になりました、ケンイチさん」


「ニャワワ(いや、こちらこそ。魔獣都市マタタビの良い娼館を沢山紹介してもらったよ)」



彼は割とその辺に対する偏見とか無く、年相応に遊んでいたようだ。



「中央都市チザンにいらっしゃれば、もっと沢山紹介出来ますよ」


「ニャワ(いや、父親がお亡くなって大変だろう。中央都市チザンのゴタゴタが落ち着いてから、向かうことにするよ)」



ブロンは、アゴに手を当てて考えるしぐさをして、俺に言う。



「今回のダンジョンの修行は、私の強さを上昇させる目的の他に、真に信頼出来る仲間を見つけるためのものでもありました。

ケンイチさん、ヒギーさん。

1ヶ月間あなた達の人となりを見させていただきましたが、信頼するに足る者だと思っています。

私達と一緒にチザンへ、来ていただけませんか?」


「ニャワ(スカウトか?)」


「えぇ」


「ニャワワ(ヒギー?)」


「ケンイチの一存で決めてもいいぞ。私は、どちらでも良い」



魔獣都市マタタビは堪能したことだし、次は中央都市チザンに行くってのも悪くないな。

大都市らしいし、色んな物が沢山あることだろう。

色んな種族の娼館もありそうだ!



「ニャワワワ(スカウトに乗るかどうかは、まだ決めかねる。

でも中央都市チザンに興味があるから、とりあえず付いていくことにするよ)」


「ありがとうございます、心強いです」



こうして俺達はダンジョンを離れ、猫トラとか言うでかい猫の背中に乗り、中央都市チザンへと向かうのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(猫)視点



15時。命君が託児所へ向かい、みのりちゃんを引き取って、戻ってきた。

俺と彼女は初対面か。



「にゃー(こんにちは)」


「こんちゃーっす! あははは、この猫喋るよ! 猫のくせに!」


「にゃー(おい命君! この子微妙に口が悪いぞ!?)」


「どこで覚えたんだろうなぁ?」



キャハキャハ笑う金髪っ娘が、てってってと、コーヒーを飲んでいるある人物の所へ走る。



「こんちゃーっす!」


「こんにちはぁぁぁぁああああああ!」


「にゃー(おいゴルン。あまり大きい声を上げるなよ)」


「大丈夫だトミタ。俺の配下の声もたいがい大きいから、穂も慣れてる」


「きゃはははー!」



穂ちゃん、テンション高いなぁ。



「にゃー(それよりゴルン、良かったのか?)」


「何がだぁぁああああ!」


「にゃー(あの宰相とやら、お前を殺すつもりだったのに。

事前に俺が気付いて、知らせてやったのに。殺されても別に良いだなんて)」


「仲間に殺されるのなら、それはそれで本望だぁぁあああああ!」



俺の夢見が悪くなるので、こうして命君のダンジョンに匿ってもらったが。

なおゴルンの居た寝床には、【鑑定偽装】した偽物の死体を置いてある。



「ねーパパー! モンフンニャイズやろー!

ガンニャンス装備、ウンコ爆弾野郎一式を作るー!」


「いいぞ、手伝おうか」


「きゃっはー!」


「にゃー(穂ちゃんが何言ってるのかさっぱり分からねぇ)」



命君と穂ちゃんは、アクションゲームを始めた。

何かモンスターと戦ってる。血がドバドバ出てるけど、教育的に大丈夫なのか?


というか3歳半なのにゲームするのか。

最近の子は、ませてるなぁ。


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