582.【後日談6】大魔導士様 その17


・ケンイチ(猫)視点



1時間後、チュートリアルクエストを達成した。

その過程で、ヒギーが所望しているホムンクルスは、割とあっさり手に入った。


目的を達成したので、ヴィクターには帰ってもらった。

ホムンクルスを解体する様子を錬金術師に見せるのは、心象が悪くなるからな。

変な噂を流されても困るし。


街の宿屋の1室にて。

俺達は、3体のホムンクルスと、そのパーツを床に並べ、じっくり観察する。


クンクンと匂いを嗅ぐ。

何の金属を使ってるんだろう。



「なるほど、なるほど。

このホムンペットという骨格に、パーツを付けるのか。

そして出来上がった個体をホムロットと呼ぶ、と。

ホムロットはホムロッチという腕時計から転送出来て、1人3体までバトルに参加させられる、と。

非力な者でも、ホムロットを戦わせることで、ダンジョン探索が出来るわけか」


「ニャワ(色々と怒られそうなネーミングだな)」



著作権的に大丈夫なのかこのダンジョン。



「分解は……出来なそうだ。プロテクトがかかっている。

おそらく、私が分解に着手した瞬間、通報される仕組みだ。残念だ」


「ニャワワ(プロテクトと言えば、このダンジョン自体に、アンチウイルスが施されているな。

うっかりウイルスを流したら、面倒なことになりそうだ)」


「よし、大体の解析は終了した。もう帰還してもいいぞケンイチ」


「ニャワ(早くない? せっかく来たんだし、もう少しこのダンジョンを探索してもいいんじゃないか?)」


「これ以上ここに居ると、深みにはまりそうだ」



ヒギーの懸念通り、この日から俺達は中庭ダンジョンにどっぷりと浸かることになる。



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(猫)視点



ここは機械仕掛けの壁に囲まれた部屋。

俺は、中庭ダンジョンのダンジョンマスター、まこと君の居る部屋に遊びに来ていた。


月日が流れるのは早いもので、命君の第一子が生まれて3年半が過ぎていた。

みのりちゃんと名付けたらしい。


命君が、金髪の元気な女の子の画像を宙に投影して見せてくれる。

穂ちゃんは今、母親の会社内の託児所に居るらしい。



「にゃー(ところで命君は、何でコレムと結婚したんだ?)」


「出来婚だって知ってんだろ?」


「にゃー(その辺を詳しく)」


「長時間一緒にゲームして、二人とも寝落ちして、んで、起きたら半分食われてたからそのまま……」



普段出来ないような下世話な話で盛り上がる。



「にゃー(ってか命君、高身長でまぁまぁ顔が良いから、もっと良い女狙えただろ?)」


「ハァ? 会社の社長で高収入、趣味が合う、会話が通じる。

これだけでも好物件だぞ?」


「にゃー(でも彼女、舌足らずで言葉遣い変じゃないか?)」


「トミタ、俺はその程度、何とも思わない。

コンビニのバイトをしていた頃に出会ったヤバイ客と比べれば、全然、大した問題じゃない」



そう言った命君は、遠い目をしていた。



◇ ◇ ◇ ◇



・ある悪魔視点



私はブロン。魔獣国チザンの王ゴルンの息子です。

数ヶ月ほど前から、この中庭ダンジョンに籠っています。


私には強さが足りないから、心の余裕が無いのだろう、と。

そう父上に言われ、確かにそうかもしれないと思いました。


父上の勧めで、修行先として紹介してもらい、恥を忍んで肉球魔王にお願いして、こうして中庭ダンジョンに入る許可を得ました。

少しでも多くの事を持ち帰るために、このヘンテコなダンジョンで修行中です。

信頼出来る学友も十数名、同行しています。


先日、私達のクランに新たな仲間、猫のケンイチ、ケンイチの左前足のヒギーが加わりました。


後輩育成も立派な修行です。全力で導きましょう。

と言っても、ケンイチ達はかなり強いみたいで、私達のサポートはほぼ必要無かったようです。

せいぜいクラン機能を教えたり、余ったアイテムを与えるくらいで。


充実したダンジョン生活。

だけど、それは長く続きませんでした。


1ヶ月後、私に母から1通の悲報が届きました。



『急ぎ中央都市へ戻りなさい。国王が崩御なさいました』



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