578.【後日談6】大魔導士様 その13



・ケンイチ(猫)視点



ヨツバとスペンサーに再会したのは良いが、話がどうも嚙み合わなかった。

なので、宿の1室を取ることにして、2人をそこに招き、詳しく話を聞いてみた。



「ニャワワ(まとめると、今のヨツバ達は、蘇生した年齢までの記憶しか持たない。

よって俺とダンジョンに潜って冒険した記憶が無い、と)」


「私とケンイチさんが出会ったのが、私が43歳の頃ってことでしたか。

残念ですが、記憶がありませんね」


「ニャワ(そうか。なら今のヨツバ達にとって俺は、突然現れた赤の他人、か)」



少し寂しいが、仕方あるまい。


記憶を取り戻す方法は肉球魔王が知っているらしいが。

本人が特に望んでいないようなので、俺がとやかく言うのは筋違いというものだろう。



「私を蘇生しようとしてたらしいですね?

冒険に誘ってくれるつもりだったのでしょうか?」


「ニャンワ(いや、ヨツバを蘇生して、次にヨツバの母親を蘇生して、二人を会わせるつもりだった。

ヨツバが俺とダンジョンに潜ろうとした理由が、蘇生スキルを手に入れて母親と再会するため、だったからな)」



ヨツバの母親のナンシーさんは、心臓の病気で早死にしたのだと聞いた。

親孝行をし足りなかったヨツバは、蘇生スキルを求めて冒険者になったのだ、と。



「なるほど。私の無念を晴らそうとしてくれたわけですね」


「ニャワワ(あぁ。だが、どうやらナンシーさんも蘇生してもらってるみたいだし。

その顔を見ると、満足しているようだな)」


「えぇ。猫さんには感謝しています。

ケンイチさんは猫さんへ、他の仲間の蘇生を頼むつもりですか?」


「ニャワ(いいや。彼らは自分の人生に納得して死んでいったはずだ。

呼び戻すのは野暮ってもんだ。ヨツバにしたって、母親の件が無ければ蘇生を頼むつもりは無かった)」



ヨツバが、そうですか。と頷いた。



「……。ケンイチさんは、これからどうするつもりですか?」


「ニャワワ(娼館に行く。そうだスペンサー。お前独身に戻ったんだろ。

一緒に行こうぜ)」


「吾輩はヨツバの奴隷であり、ボディガードだ。勝手に離れる事は許されない」


「いいですよ行っても。ボディガードは、ホムンクルス達が居ますし。

……ハッ!? 女性用の娼館を作れば、疑似逆ハーレムになるのでは!?

これは市場調査が必要ですね! 私も行きましょう!」



意味不明な事を言いつつヨツバが付いて来ようとしてきたので、俺は辛うじてヨツバをまいて、近くの風呂屋へ逃げ込んだのだった。

ヨツバよ、男に囲まれたいだけなら、ホストじゃ駄目なのか?



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(猫)視点



昼の風呂屋にて。

俺は35℃の低温室で、岩盤浴をしていた。



「にゃー(あったけぇ)」



タオル越しに岩盤から伝わる遠赤外線が、体に染み渡るぜ。


最近ネコ科魔獣も岩盤浴の良さが分かってきたのか、俺の周りには6体くらいのネコ科魔獣がゴロンと寝転がって昼寝している。

岩盤は45℃~50℃くらいで、いい感じのぬくもりを感じる。



「みゃーん(みなさーん、水分補給をしてくださーい)」



係員が定期的に、脱水予防のために水分を摂るよう呼び掛ける。

昼寝してたネコ科魔獣達が目を開け、アクビをして、起き上がってうーんと伸びをし、水飲み場へと向かう。


俺も水飲み場で水を飲んだ後、再び岩盤へ向かい横になる。


……。


……ガチャリ。

新たなお客が岩盤浴にやって来たようだ。


てくてく、ごろりん。

紫毛皮なそいつは俺の横に転がった。



「ニャワワ(じじ臭い事してるのな肉球魔王)」


「にゃー(こんにちは)」



ケンイチ君がやって来た。

俺の予想だと彼は娼館に向かっていたはずなのだが。

今日は予想が外れっぱなしだな。



「ニャワ(ヨツバの願いを叶えてくれた事は感謝する。

だが。肉球魔王。その人の人生は、その人の物だ。

あまり野暮(やぼ)な事はするなよ)」


「にゃー(何の話をしているんだ?)」


「ニャワニャワ(蘇生スキルの事だ。肉球魔王、お前は自分の欲望のために、何人蘇生した?

そいつらが、死んだ後蘇らせて欲しいと一度でも言ったか?)」


「にゃー(何か問題でも?)」


「ニャンニャワ(必要の無い蘇生は、他人の人生の物語にケチをつけるような野暮ったい行為だ。

いったん終わった物語を、どうして掘り返す?

お前は神にでもなったつもりか?)」



なったつもりも何も神だが。

ケンイチ君は、まだ神格化による寿命無限化に気づいていないらしい。



「ニャワ(俺が言いたいのは、肉球魔王、たとえお前であっても他人の人生に指図する権利は……)」


「なんなー(うるさーい! お昼寝の邪魔!)」


「みゃーん(すみませんケンイチ様。他のお客様のご迷惑になりますので……)」


「……」



ケンイチ君は、係員に連れられて出ていった。


他人の人生に指図、ねぇ。

そんな事してるつもりは無いけど、ケンイチ君から見ればそう見えるのだろうか。

というか彼も俺に指図してるのはブーメランではなかろうか。


静かになった岩盤浴の部屋に、再びネコ科魔獣の寝息がすぴすぴと聞こえる。


俺はケンイチ君の言ってる事を反芻はんすうしてみたが、薄っぺらい説教を垂れているようにしか聞こえなかった。

立場の違いで見え方も違ってくるのだろうか。


……。


……ZZZ。


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