577.【後日談6】大魔導士様 その12


・ケンイチ(猫)視点



結界術。

魔力を付与した亜空間を作り出し、そこに自他を閉じ込めるテクニックだ。


基本的に、結界を作り出した側が有利になる効果が、結界内には付与されている。

相手だけ息が出来ないとか、相手だけスキルが使えないとか、相手に魔法が絶対当たるとか。


しかし、効果が強い結界ほど、代償が大きく、扱いがデリケートになる。

つまり乱されやすい。乱されたら結界として機能しなくなる。


ダンジョンの罠には、即死級の結界も多数あった。

当然、対策はしてあった。



「ニャワワ(無害な結界なんて、初めて見たぞ)」



だから、害の無い結界を張られていると、気づけない。

それにこの結界、効果が無い代わりに閉じ込めに特化しているようで、何とも面倒な結界だ。



「結界の効果には頼らず、数の暴力で攻めるつもりなのだろう」


「ニャワワ(だったら【錬菌術】奥義。男を魅了する危セイレー……)」


『お、お待ちください! 我々に敵意はありません!

どうかご容赦を!』



結界一面を酸の海に変えてやろうと思ったけど、小人達が平謝りしてきたので【錬菌術】を止めた。



「ニャワ(敵対するつもりが無いのならまず、結界術を解け。俺は逃げないし、話くらいは聞くから)」


「いいのかケンイチ? 先ほどの殺気は本物だったぞ?」



シュゥゥゥっという音とともに結界が晴れて、俺達は屋根の上に降り立った。

三角屋根の頂点の屋根瓦を枕にしてお昼寝している猫がそこかしこに居る。


小人達が近づいてきた。



『では改めましてケンイチ様。

我々の主のヨツバ様に、どういったご用事かお聞かせ願えますか?』


「ニャワ(その前に前提として、お前達が言ってるヨツバ様と、俺が言ってるヨツバが別人の可能性が高い)」



ヨツバの生前は、凄腕の冒険者だった。

もちろん超有名人、冒険者達の憧れの的だった。


だから元冒険者の夫婦が女の子どもを授かった場合、女性の凄腕冒険者の名前を付けることがよくある。

何かしらあやかりたいと思ってのことだろう。


俺も地上に居た頃、自分と同姓同名の男に何人か会ったことがある。

ヨツバという名前の同姓同名が沢山居ても不思議ではない。

こいつらの主も、十中八九、同姓同名なのだろう。


が、一応【鑑定】しておくか。

無いとは思うが、もし万が一肉球魔王がヨツバを既に蘇生させていたのなら……



「ケンイチ、どうやら我々が用のあるヨツバは、彼らの言うヨツバと一致しているようだ」


「……」


「肉球魔王が蘇生させたようだ。蘇生の事実は【鑑定】の権限が低い者は見れないようだが。

おそらく、肉球魔王が際限なく蘇生をねだられるのを防ぐために隠しているのだろう。

……聞いているかケンイチ。おい、ケンイチ」


「ニャワニャ(会えるのか。また会えるのか!)」


『あのー、ヨツバ様に会われるのでしたら、用件を聞かないことには』


「ニャワワ(旧友に会うのに用件が要るのか?)」


『旧友と言われましても……』


「ニャワ(いいから会わせろ!)」


『はぁ……分かりました。ですが怪しい行動は起こさないでくださいよ?』



小人達が、付いてきてくださいと案内してくれる。


しばらく歩いて、1つの宿屋の前に着いた。



『ここです』



小人が宿の扉を開ける。

俺達は宿の中に入る。



「いらっしゃいませー」



受付カウンターで頬杖をついて、だるそうにしている赤髪の女性。



「ニャワー(久しぶりヨツバぁ!)」



俺はぴょーんとヨツバへと飛びつく。


が、影から出てきた男に後ろから持ち上げられる。



「吾輩の主に何用か」



短髪の金髪で、銀色のフレームの伊達メガネを付けた男だ。

って、



「ニャワー(スペンサー! 元気かー!?)」


「うわっ!? 何だ、吾輩の腕に巻きつくな!?」



体を捻って拘束を逃れ、スペンサーに絡みつく。

スペンサーの服に俺の毛がこびりつく。



「スペンサー君。この猫、知り合いですか?」


「知らぬ!」


「ニャワヌ(つれないこと言うなよー)」


『ああ、ケンイチ様、困ります!

ヨツバ様、この方はケンイチ様という名前で……』



俺が舞い上がってる横で、小人達が俺の説明をしている。


ダンジョンに一緒に潜り、そして失った仲間の2人。

ヨツバとスペンサーに、再び会うことが出来たのだった。




◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(猫)視点



昼。雑貨屋クローバーのおやつコーナーの商品を補充しながら、ケンイチ君の動向を観察していた。

ケンイチ君は、ヨツバとスペンサー君に出会ってしまったらしい。


俺の予想では、ケンイチ君は魔獣幹部達全員へ挑戦して打ち負かし、俺への挑戦権を獲得し、俺に勝ったらヨツバ達の蘇生をしろと要求するはずだったのだが。

魔獣都市マタタビに来てからの動向が、計算と比べずいぶんとズレてしまっていた。



「にゃー(おいソフ。ヨツバのホムンクルス達を誘導して、けしかけたな)」


『ふん。何のことだ?』



首輪型魔道具内部に封印している、元鑑定神のソフはとぼけた声を出した。



「にゃー(魔獣幹部達が最近天狗になってるから、ケンイチ君に伸びた鼻を折ってもらおうと思ってたのに。

俺の計画や準備が全部パーになったぞ)」


『クックック、残念だったな』



ケンイチ君やヨツバのホムンクルス達は【鑑定】を使ってたからな。

元とはいえ鑑定神のソフならば、【鑑定】を使った者へ、いくらでも干渉出来る。

それこそ、俺が気付かないくらいの微小な干渉も。



「にゃー(お前が、こんな生産性の無い嫌がらせをするとは予想外だったぞ)」


『嫌がらせ? それは逆だトミタ。

ケンイチとやらがヨツバに会うのを遅らせようとしたのはお前の方だ。

俺は本来の流れに戻したに過ぎん』


「にゃー(せっかくの魔獣幹部達の成長の機会だったのに)」


『お人よしも、そこまでいくとありがた迷惑だ。凡才は天才の足を引っ張ってはならん』


「にゃー(天才って、ケンイチ君が?)」



ソフの天才の基準は、イマイチ分からん。



『俺の考える天才の基準が分からんと顔に書いてあるな。

もう一度言ってやる。天才とは替えが利かない存在だ。

どれだけ優秀でも、替えが利くのであればそれは秀才だ。

多少有能な凡才に過ぎん』


「にゃー(ハイハイ)」



ソフが天才秀才論議を続けるが、俺は無視して昼寝することにした。

売り物の爪とぎの1つを枕にして横になる。


おやすみなさい。

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