574.【後日談6】大魔導士様 その9



・トミタ(猫)視点



時刻は夜。森の自宅前の庭にて。

アウレネ達は眠っており、庭には俺1人、いや1匹。


かまどからパチパチと音がするくらいで、静かなものだ。


俺はかまどの中の火へ、まきを追加する。

そしてかまどの近くでまったりと横になる。

ぬくぬくだぜ。


ごろんとひっくり返ってへそ天になる。

星空が綺麗だ。


……。


…………。



「みゅ~(お腹空いたにゃ。夜食を所望するにゃ~)」


「にゃー(うるさいぞ)」


「みゅ~(かまどに火がついてるから、お魚を焼くにゃ)」



せっかく夜の静寂を楽しんでいたのに、白猫リリーの乱入で、騒がしくなる。

かまどに串刺しの川魚が3本投入される。食べすぎだ。

あと直で火をつけるなよ。焦げても知らんぞ。



「みゅ~(焼き魚は、火力が命にゃ~)」


「にゃー(それは中華じゃなかったっけか。というか勝手に薪を追加するんじゃない。暑苦しい)」



居心地が悪くなったので、俺は自宅に退避することにした。

まったく、リリーには困ったものだ。


自宅のベッドで寝っ転がっていると、「みゅ~(うわーん、コゲコゲにゃ~)」という悲鳴が聞こえてきた。

そりゃ直で強火にすりゃ、そうなるわな。


それからリリーは俺の家に突入して「みゅ~(お魚綺麗に焼いて欲しいにゃ)」と頼み込んできた。

なので俺達は外に出て、庭のかまどで魚と虫を串刺しにして、バーベキューを行ったのだった。

やれやれだぜ。



◇ ◇ ◇ ◇



・ケンイチ(猫)視点



夜。俺は宿で、ボーッとしていた。


俺のジャブで魔獣幹部ケルベロスが息を引き取り、それから話し合いどころではなくなったのだ。

俺とピンク毛皮のお嬢さん犬は帰ってもらうように頼まれた。

幹部職の跡継ぎをどうするかの話し合いが行われるので、部外者の相手をする余裕が無いのだとか。



「ケンイチ。あれは正当防衛だ。向こうが先に手を出してきたんだ。

殺してくるのなら、殺されても文句は言えない。現に周りの者も、誰一人ケンイチをとがめなかった」


「ニャワワ(ヒギー。これでも俺は精いっぱい手加減したんだ)」


「我々は、1000年の間、ダンジョン内で生き続けたのだ。

私が寝ている時はケンイチが、ケンイチが寝ている時は私が、襲い来る敵を殺してきた。

つまり少ない手数で、最低限の労力で、確実に殺す事に慣れているのだ。

だから我々は相手を仕留める事に関しては得意だが、手加減というものは苦手なのだ」


「ニャワ(殴る場所を、前足にすべきだったな。それから、もっと早くヒールをかけるべきだった)」


「仕方ないさ。気づいた時には、肉体から魂が抜けていた。あれはどうにもならな……どういうことだ?」



ヒギーが気にかけている方向を注意して見てみると、大きな力の反応が1つ現れた。

魔獣幹部ケルベロスの小城? この反応は……。



「ニャワム(ヒギー? ……? ……! 魔獣幹部ケルベロスが生き返った!?)」


「蘇生術? いや、違うな。魂を引きずり下ろした? だが、どうやって?」


「ニャワワ(これは、魔獣都市マタタビの肉球魔王様の仕業か)」



【鑑定】によれば、肉球魔王様が、昇天しかけのケルベロスの魂を無理やり降ろし復活させたらしい。



「ニャワ(会いに行く理由が出来たな、肉球魔王に)」


「会ってどうする? 肉球魔王は【蘇生】スキルを持っているのか?

持っているとしても、協力してくれるのか?」


「ニャワワ(それはダメもとだ。それに、魔獣都市マタタビには、人間の娼館しょうかんもある)」


「質と数は中央都市チザンの方が良いみたいだが」


「ニャンニャワ(先に魔獣都市マタタビに行く。チザンはその後だ)」



肉球魔王は蘇生が出来るのか?

出来るとしても、俺に協力してくれるのか?

俺はその代償を払えるのか?


可能性は限りなく低いだろう。

だが、可能性がゼロでないのなら、行く価値はあるはずだ。


ヒギーに会う前に、一緒にダンジョンに潜っていた仲間の、ヨツバ。

そしてそのヨツバが蘇らせたがっていた、彼女の母を蘇らせられるのなら。

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