573.【後日談6】大魔導士様 その8


・トミタ(猫)視点



映像を見た後の魔獣幹部達は、しばらく言葉を失っていた。



「んなう(……動きが止まっていましたな。今のは何ですかな?)」


「にゃー(ケンイチ君の奥義の1つだな)」


「うみゅう(【錬菌術】の鑑定結果を見たけれど、あんな菌は知らない)」



そりゃ鑑定結果は、嘘はつかないが言葉足らずだからな。

全ての情報が閲覧できるわけじゃない。


『菌』と名前がついているけど、【錬菌術】スキルの効果範囲は細菌や真菌にとどまらない。

ウイルス、寄生虫、さらには条件付きだが宇宙人的な物も効果対象だ。

このスキルの管理者にとっては、細菌も宇宙人も、侵略者というくくりでは同じようなものらしい。


金の亡者が必死に【鑑定】を行っているが、閲覧レベルが足りずに情報が見れないようだ。

こういった宇宙人的な物は、ある程度偉い神様じゃなきゃ、情報閲覧が出来ない。


何せ、ある程度の耐性がある奴じゃないと、情報を見ただけで呪ってきたり感染したりする奴も居るからな。

ねこですみたいな感じで。

あの時は俺への害が無さ過ぎて、対策漏れしてしまっていたが。


ケンイチ君の奥義、ピラー招来と言ったか。

あれは一種の降霊術のようなものだ。


柱という宇宙人的な物を召喚し、それを依り代に霊を降ろす。


霊といっても、かなり知名度の高い有名な霊の力は、神にも匹敵する。

なにせ信者が多いからな。

ネフェルティティなんかは、多分下手な神よりも信者が多いはずだ。


もちろん相応の代償も必要だ。

ケンイチ君の場合は、ダンジョンの中で拾った高価な魔道具を数個捧げたようだ。

俺が同じようにスキルを使ったところで、捧げ物不足で協力してくれないだろうな。



「あれは一見、時間を止めてるような感じに見えるけれど。

カメラ越しにケンイチ以外が止まって見えてるってことは、時間は止まってないんだろうねぇ」


「アァー……精……神……汚……染」



ゾンビキャットが正解へたどり着く。

そう。あれは時間操作系じゃない。精神操作系だ。


だから時間操作系の対策が完璧だろうと、引っかかる。

ネフェルティティは、体感時間を短くしたのだ。


体感時間とは例えば、同じ1時間でも、たのしいデートの1時間はあっという間に過ぎる。

逆に楽しくない勉強の1時間はなかなか終わらない。


楽しい時間があっという間に過ぎるのは、体感時間が短くなったから。

1時間が、まるで5分のように感じられるのだ。

楽しくない時間がなかなか終わらないのは、体感時間が長くなったから。

1時間が、まるで2時間3時間のように感じられるのだ。


実際は楽しい1時間と、楽しくない1時間は同じ1時間。

だが、当事者の中では前者は短く、後者は長くなる



「ガゥ(つまり、どういうことだ?)」


「にゃー(体感時間を短くしたんだ。

だが、魔獣だけでなく物体の体感時間までも短く出来るのを見るに、効果は超強力。

ちょっとした耐性程度では全く対策にならないだろう)」


「ガガォ(それ、分かってても対策出来ないんじゃね?)」


「なるほどねぇ。これは1度見て見ないと、魔獣幹部全滅も頷けるねぇ」


「うみゅう(仕組みは分かった。あとは対策を考えるのみ)」


「んなー(では1度解散し、各自対策を考え、夜の会合で話し合いという感じですな)」



火車は動揺を隠すためにお腹を毛づくろいしながら言った。

そして魔獣幹部達は散っていった。


ヒントは十分与えたぞ。

これで惨敗から、惜しくも負ける、くらいまでマシになるか。



「アァー」



ゾンビキャットが戻ってきた。

忘れ物かな?



『ひょっとして、ケンイチの奥義は、他にもありますか?』と書かれた紙を渡された。


「にゃー(あるに決まってるだろ)」



『教えてください』と書かれた紙をゾンビキャットが渡してくるが。



「にゃー(さすがの俺でもそれは過保護過ぎると思うぞ。駄目だ)」



断ったら、ゾンビキャットが、『ケチ!』と書かれた紙を渡してきた。

それから何度もねだられたが断り続けると、ゾンビキャットは諦めて帰っていった。



◇ ◇ ◇ ◇



・魔獣幹部ケルベロス(犬)視点



ふわふわな雲が眼下に見える。


俺は、虹色の床の上に座っていた。

隣には、かつての俺の世話役だったが、年による老衰で死んだ人間が立っていた。



「ガァ(つーことは、ここは天国か?)」


「……」



世話役だったじーさんは、口をパクパクするが、何も音声は発せられない。

だが、かつてのように、ブラシをポケットから取り出し、俺を毛づくろいしてくれる。



「ガゥゥ(思ってたよりも、狭い場所だな、天国ってのは。まるで橋の上みたいだ)」



虹の床の端には、雲の下を見ている猫公やイヌ科魔獣やらが列を作っている。


首をひねって反対側を見てみる。

サバトラ柄の猫公が、人間の女に抱っこされている。


そして、2人はふわふわと空に飛んで行って、消えていった。



「ガォゥ(なんだよ、ここは待ち合わせ場所か。そうか、待っててくれたのか)」


「……」


「ガゥ(魔獣が上、人間が下。強い奴が上、弱い奴が下。だが死んでしまえば俺達は同じ、か。

いや、ひょっとすると生きてる頃からそうだったのか……)」


「……」


「ガウ(まぁ、いいか。俺達も行こう)」



人間のじーさんがにこりとし、俺達は空へと登っていく。


……はずだったのだが。



「にゃー(猫招き)」



どこからともなく、奴の声が聞こえ、


ぎゅぉおおおおおおお!

下方向への重力を受け、俺だけが下へと落ちていく。


人間のじーさんも昇天を中断し、虹の床の上へと戻って、オロオロしている。



「にゃー(死ぬな。お前にはまだやってもらわねばならんことがある)」


「ガォォ!(肉球魔王! どういうつもりだ、てめぇーーー!!)」



一瞬、視界が真っ白になり、



「……ガゥ(はっ!?)」



俺は、ベッド(イヌ科魔獣専用)の上で、目が覚めたのだった。

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