572.【後日談6】大魔導士様 その7
・トミタ(猫)視点
昼食が終わった後、俺は魔獣都市マタタビの魔獣幹部達を、自宅前の庭に集めた。
「んなー(肉球魔王様、我々に話とは?)」
「にゃー(近いうちに、魔獣幹部相当が現れるぞ)」
魔獣幹部職は基本的に、同族で強い者が就くことになっている。
つまり今のネコ科魔獣の魔獣幹部達は、ネコ科魔獣
魔獣幹部になるためには、その魔獣幹部へ試合を挑み、勝たなければならない。
しかしながら、魔獣幹部が強いとはいえ、四六時中挑戦を受けていては、仕事にならない。
というかキリがない。
そこで、魔獣幹部達に挑戦する機会を与える期間が年に1・2度程度、設けられている。
挑戦者はせいぜい50名足らず。
魔獣幹部達が分担して、その期間にまとめて相手をするのだ。
それが1週間後に控えている。
挑戦者が勝った場合は、魔獣幹部になる事が出来るし、魔獣幹部にならずとも高給職を案内されたりする。
青鬼猫の鬼丸や、猫のお巡りさんのトップの黒猫魔獣は、それぞれ魔獣幹部の化け猫とキメラを下したことがある。
その高い実力から、魔獣幹部ではないが、魔獣幹部相当と呼ばれている。
ここしばらくは、魔獣幹部の変動も無く、新たな魔獣幹部相当は現れなかったが。
「うみゅう(つまり、魔獣幹部の誰かが負ける?)」
「にゃー(いや、誰か、じゃない。全員だ)」
「「「「「!!!????」」」」」
魔獣幹部達が全員、息を
「ガゥ(魔獣幹部になりたいだけなら、幹部を1体倒せばそれでいいだろ?
何で全員を相手するんだ?)」
「それはつまり……魔獣幹部の数減らしってことだねぇ?」
「アァー……発……言……力……増」
「にゃー(あぁ。ゾンビキャットが言う通りだな。
魔獣幹部の数が減れば減るほど、魔獣幹部1体あたりの発言力が上昇する。
中央都市チザンが定める、各都市の魔獣幹部の最低人数は2名。つまり……)」
「んなう(魔獣幹部全員を下し、わざと弱い魔獣幹部1体を残すことで、実質的に都市のトップとなる。
魔獣都市ホネブトのイヌ科魔獣幹部も同じ理屈で、実質ケルベロスがトップですな。
……いや、理屈は分かりますが、実現可能なのですかな?
というか本当にそんなネコ科魔獣が居れば、噂にならないはずがないのですが)」
魔獣幹部
「にゃー(彼は最近ダンジョンから出てきたっぽくてな。
浅いダンジョンならともかく、深いダンジョンの中だとさすがに俺でも目が届かない)」
「んなお(肉球魔王様が最近まで気が付かなかった存在なら、我々が感知出来なかったのも無理はありませんな)」
「うみゅう(それで、その魔獣幹部相当のネコ科魔獣はどこの誰?)」
「にゃー(あぁ。今から映像を見せる。今は魔獣都市ホネブトに居る奴だ。
名前はケンイチ。【錬菌術】使いだ)」
丁度ケンイチは、向こうのイヌ科魔獣幹部と戦う直前っぽいから、その様子を見てもらうことにした。
多分初見じゃ、あれは対処出来ないだろうからな。
◇ ◇ ◇ ◇
・ケンイチ(猫)視点
小城の門番のイヌ科魔獣が「ワン(ここを通りたくば俺達を倒してみろ!)」と通せんぼしてきたので、軽くひねってやった。
すると、玄関の扉が開かれ、執事服を着て眼鏡をかけたオス犬が現れ、道案内をしてくれると言ってきた。
石造りの通路を通ること数分、大きな金属の扉の前へとたどり着く。
「アオーン(ケルベロス様、お客様です。3番地区の娼館のピンクドッグ様と、旅人のネコ科魔獣ケンイチ様です)」
「ガルルル(入っていいぞ)」
扉が開かれると、3段ほど高い場所で、大きなバスタオルをカミカミしている、大きくて黒い体の3首の犬が居た。
周りには、これといって特に特徴の無い魔獣の犬が沢山居る。
「ガゥガゥ(よぉ、ピンクドッグ。よくここまで来れたな。門番を倒したのは、隣の猫公か?
相変わらず、男に尻尾振って過ごしてんのな。恥ずかしくないのか?)」
「キャウン(今日は私は付き添いです。ケンイチ様、発言は全てお任せ致します)」
「ブルルァァ!(ああっ! てめー、さっき俺の前足を痛めつけてくれた奴!)」
お、人間みたいに二足歩行しているイヌ科魔獣、ウェアウルフがこちらを指さしている。
はて、どこかで会ったような?
「ケンイチ、まさか骨屋の彼を忘れたのか?
「ニャワワ(いやまさかぁ。覚えてるって、うん、多分、きっと)」
「ガゥゥ(骨屋。お前負けたんだろ? 弱い奴に発言権はねぇよ? 黙ってろ)」
骨屋の二足歩行犬は、悔しそうにグルルル言った後、黙った。
魔獣幹部の黒犬は、タオルカミカミを
「ガガガゥゥ(さーってと。猫公、用件を聞こうか?)」
「ニャワ(お前の配下が、最近トラブルを頻発させているらしいが。どういうつもりだ?)」
「ガガウガウ(末端のしでかした事の詳細は知らねぇが、確かに骨屋の売ったあの鳥の骨はいけねぇな。
俺も食ったが、俺の喉は高温だから、飲み込んだ瞬間に骨が加熱されて、縦に骨が割れて刺さりそうになった。
骨屋には、売る骨の種類は注意するように言っておくぜ)」
俺とヒギーがここに来るまでの間に、【鑑定】で集めた情報によれば、この魔獣幹部は、以前よりもお金を貯めるようになっていた。
具体的には、配下からの取り立てを増やしているようだった。
結果、この魔獣幹部の配下の商品の品質が悪くなったり、逆にやたら高騰したりしているようだ。
骨屋の骨の質が悪くなったのも、その影響なのだろう。
「ニャワワム(お金を貯めているようだが、何が目的だ?)」
「ガゥガーウ(おっと。そこまでお見通しか。
隠すほどのことじゃねーよ。俺のパワーアップ目的だ。
アレクサンドラ研究所って知ってるか?
魔道具を体に埋め込む手術をしてるらしいんだが、強力な魔道具ほど手術が高額になるんでなぁ。
今は、手術費用を
「ニャワ(無駄だ。お前じゃ、パワーアップしたところで、肉球魔王には敵わない)」
「ガガガゥ(あぁ?)」
【鑑定】で戦術データを収集した際、このケルベロスが最近大敗した相手は、肉球魔王だった。
それもあっけなくポィっと投げられて。
肉球魔王についても戦績や戦術データは集めたが、あれは魔道具の差でどうこうなるものではない。
「ガゥゥ(猫公が、調子乗ってんじゃねぇぞ。焼き殺してやろうか!)」
「ワオーン(まずい、ケルベロス様がお怒りだ! ケンイチ様! 早く謝罪を!)」
「ニャワ(喧嘩を売ってるというのなら、買うぞ?)」
「キャン(ひぇぇ!? 何で
ケルベロスが灼熱の黒い火を俺へと吹く。
ピンク毛皮のお嬢さん犬と、紳士服の犬が慌てて俺の傍から離れるが遅い。
俺が迫りくる炎を避けるのは簡単だが、お嬢さんや紳士服の犬、その他の者を巻き込んでしまうだろう。
仕方ないな。
「ワニャワワ(【錬菌術】奥義。
目に見えない柱を作り出す。
瞬間、迫る炎は
魔獣幹部ケルベロス、その従者、俺の後ろのピンク毛皮のお嬢さん犬と、紳士服の犬、彼ら彼女らの全ての動きが緩やかになる。
部屋の時計の秒針は、まるで時針のように動きを緩める。
この周囲全ての物、者、現象は、ネフェルティティの美しさによって、体感時間が短くなった。
俺とヒギーを除いて。
俺は炎を消火し、お嬢さん犬と周りの犬を安全な端っこへと移動させる。
そしてケルベロスのボディに軽くジャブを入れる。
俺の体感時間で200秒。
ケルベロス達の体感時間だと0.1秒くらい。
柱の効果が切れ、消滅する。
俺は天に向かって、敬礼をする。(※敬礼している相手はネフェルティティです)
ズドン!
大きな音とともに、目の前のケルベロスが、白目を剥いて倒れるのだった。
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