569.【後日談6】大魔導士様 その4


・トミタ(猫)視点



夜。人間達が寝静まる時間。

宿屋の管理人室にて。


ネルとナンシーさんが寝ているお布団から抜け出した俺は、派遣していたホムンクルスからの調査結果を受け取る。


ふーむ、元大魔導士様は魔獣都市ホネブトに居るっぽいな。

何故かイヌ科魔獣用の娼館で、ピンク毛皮なイヌ科魔獣の背中をモミモミしてるようだが。


そして向こうは俺に気づいているっぽいから、あんまり監視すると敵対されるかもしれん。

ホムンクルスの監視派遣はこれ以降、やめておくことにしよう。


さて、今日の魔獣幹部の会合に向かうとするか。


俺はサバさん達を起こさないように気を付けつつ、そっと前足で窓を開け、ひょいと外に出て、窓を閉める。


そして中央広場までテクテク歩く。


お、バッタ見っけ。

誰も気づいていないのか。


隠ぺい系のスキルでも持ってるのかな。

モグモグ。エビの味。


道草を食いつつ(草は食わないが)、俺は中央広場に着く。

今日の議題は、ネコ科魔獣の昼夜逆転現象について。


人間の生活に合わせているネコ科魔獣が、夜にぐっすり眠っていて、昼に活発になっているのだという。

サバさんとかが、その典型例だな。


今のところ健康被害らしきものは出ていないが、引き続き経過観察が必要だろうという結論に至る。


今日も魔獣都市マタタビは平和だ。



◇ ◇ ◇ ◇



・ケンイチ(猫)視点



背中モミモミ。


俺は激怒した。必ず、この娼館で前払いした分の元は取らねばならぬと決意した。


お腹モミモミ。


俺には犬の良さはわからぬ。俺は、ただの冒険者である。

チートスキルの【錬菌術】を使い、稼いだお金は娼館に落として暮らしてきた。

けれども女の涙に対しては、人一倍に敏感であった。


再び背中モミモミ。



「キャウン(お客さん、お上手ですわ)」


「ケンイチ、娼館に居る間は口を出さない約束だったが、言わざるを得ない。

イヌ科魔獣のマッサージ……それは金を出してまで、したかった事なのか?」


「ニャワワ(うるせぇ! この魔獣都市ホネブトには、犬用の娼館しか無いなんて思わなかったんだよッ!)」


「少し注意して考え、調べればすぐわかった事だろう。勉強不足だなケンイチ」



ああくそッ、さすが魔獣都市ホネブトで最上級の娼館。

無駄に毛並が良いなこの犬のお嬢さん!

モフり心地抜群だ!


俺の左前足から声が出ても、少し驚いただけですぐ俺への相手に切り替えたところは、さすがプロ。



「キャン(お客さん、この後の行為は……)」


「ニャワ(犬相手に欲情しないから本番は無しだ)」


「人間相手に欲情するのも変な話だが。

この都市で人間を抱きたいのなら、酒場で口説くか、裏道で身売りしてる女に声をかければいいだろう」


「ニャワワ(何も分かってないなヒギー。俺が抱きたいのは、いい女だ。

だから高い娼館へ行く。見た目の美しさだけじゃない。

マナー、教養、人間性、気づかい、プロ意識等……それら全てが磨き上げられているからだ。

その辺で必要に迫られて身売りしてる女に、それらが備わってると思うか?)」


「理解出来んな。ヤってしまえば一緒だろう?

後に何も残らないのだから。

そもそもケンイチは猫になってからは、娼館でも、人間の女にタ〇タ〇をモミモミしてもらってるだけじゃないか。

生殖行為と呼べないそれは無駄な行為にしか見えないな」


「ニャワ(分かった。お前には情ってもんが無いのはよく分かった。もう喋らなくていいぞ)」


「あぁ、おやすみ」



ヒギーはそれきり、喋らなくなった。


俺は時間いっぱいまで、犬のお嬢さんをモミモミしたのだった。

割と満たされたし、楽しかった。

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