570.【後日談6】大魔導士様 その5


・トミタ(猫)視点



今日も良い天気の魔獣都市マタタビ、中央広場にて。


普段なら、ネコ科魔獣達は昼寝している時間なのだが。

今日は目をギンギラに輝かせている。


大鍋商会会長で黒髪転移者の橘若菜が、腕組みして広場の時計を眺めていた。

そろそろ時間だな。


ゴォォォオオオオオ……


スタッ。


観光バス大の大きさで、背中に荷台のような構造があるぶち模様のネコ科魔獣、猫トラが中央広場へと降り立った。

猫トラの背中から、アザラシに人間の手足が生えたような見た目の奴らが降りてくる。


魔獣都市シャケに居る、アザラシ科魔獣の皆さまだ。



「キュワッ!(お待たせしました!)」


「お疲れ様。どのくらい休憩必要?」


「キュー!(いえ、必要ありません。今すぐ始めても大丈夫ですよ!)」


「おっけー。若ニャン、テーブルとか用意開始」


「にゃあああああん(いえすまむ)」



葉っぱを頭から生やした、体が白色の猫型植物魔獣、ニャンドラゴラの若ニャンが、四次元空間からぽんぽんとテーブルやら包丁やらを取り出す。



「キュワワ(包丁は自分のを使うから大丈夫ですよ)」


「にゃああああん(おーらいと)」


「みゃーう(レジの準備バッチリよ! 今日は稼ぐわよ!)」



白い首輪型魔道具を着けた、赤毛の魔獣イブが、即席のレジカウンターのレジの上に乗っかって鳴いている。

レジは乗るものじゃないぞ。壊れても知らんぞ。



「では皆さまお待たせしました。これより大鍋商会主催、鬼マグロ解体ショーを開催します!」


「みゃおん(解体が終わる度に、部位ごとに販売するわ!

1時間前に配った整理券を持って、ここに順番に並びなさい!

1名につき3万マタタビ分まで購入出来るわよ!

整理券を持ってない奴は、ニャンドラゴラから貰いなさい!

整理券を持たずに列に並んでたら、ぶっ飛ばすわよ!)」


「それじゃ、アザラシ科魔獣の皆さん、お願いしまーす」


「「「キュー!(それでは解体開始します!)」」」



デカいマグロ魔獣が四次元空間から取り出される。

そして、3体同時に解体され始める。


ネコ科魔獣達の目が釘付けだ。


解体は錬金術で出来なくもないが、10%くらい消失するし、鮮度も少し落ちる。

大鍋錬金みたいな大味な錬金だと、デメリットは倍以上になるだろう。


だから解体の仕事は無くならない。


それに今日みたいな解体ショーを見るのも面白いな。


そうこうしているうちに、3体の解体が終わったようだ。

さっそくネコ科魔獣達が列に並んで買っている。


ふむ?

骨は捨てるみたいだな。

勿体ないから分けて貰おうっと。

いいダシが取れそうだ。



◇ ◇ ◇ ◇



・ケンイチ(猫)視点



翌日。


俺は宿を出て、魔獣都市ホネブトの街並みを見る。


元々ドワーフが中心となって暮らしていた都市なのだろう。

燃えないように石やレンガを使った建物が多い。


人間が1、ドワーフが2、イヌ科魔獣が7といった割合か。


ドワーフが人間よりも多いせいか、酒場の数がやたらと多い。

昨日利用した娼館は娼館専用の建物だったが、1階に酒場を併設した娼館や宿が多いようだ。

酒場で客を引っかけて連れ込む感じかな。



「キャウン!(この木箱の中、コカトリスの骨ばっかりじゃないですか!

こんなの食べたら、尖って割れて喉や胃に突き刺さります!)」


「ブルルァ!(はぁ? それは過熱した骨の話だろ?

生の骨は縦に割れる心配はねぇよ)」


「キャン!(他の種類の骨に換えてください!)」


「ブルルゥ!(ああん? 俺様に文句があるってのか!)」


「ワオーン(キャーッ!)」



通りすがりの酒場の中から、そんな声が聞こえる。



「ニャワ(女性の悲鳴とあらば、紳士の俺が助けないわけにはいかないな)」



酒場の中に入る。


大柄の黒いウェアウルフ(オス)が、瑠璃(るり)色の犬|(メス)と、ピンク色の犬|(メス)を殴ろうとしていた。

俺はすかさず割って入り、彼女らを左前足で庇(かば)う。


ガキィィイイイイン!



「ブルァァアアアア!(痛ッぇええええ!?)」


「ニャワォ(お前の右前足は今ので完全にイカれた。しばらくは使い物にならない)」


「ブルゥ……(ちくしょー! テメェ覚えてろよ!

魔獣幹部様直属の骨屋の俺様に喧嘩売ったこと、後悔させてやる!)」



ウェアウルフは、みっともなく酒場を去っていった。



「ニャワ(お嬢さん方、大丈夫か?)」


「キャン(あなたは昨日のお客さん……)」


「ワウン(お姉さま、お知り合いですか?)」


「キャウン(えぇ、少しだけ)」



メス犬達は娼館仲間のようだ。

昨日俺の相手をしてくれたピンク毛皮のお嬢さんは、この子達のボスといったところか?


それにしても、この酒場の客のオス犬達は、テーブルに隠れてビクビクしてただけだった。

男として恥ずかしくないのか?



「ニャワワ(さっきのは?)」


「キャウ(贔屓(ひいき)にしていた骨屋です。

最近彼が5代目を継いでから、骨の質が悪くなって……それだけじゃなく、先ほどのような粗暴な態度も取るので困っています。

魔獣幹部とのコネが出来てから、調子に乗っているようなのです)」


「ワワン(姉さま、猫の旦那さん、奥で話しましょう。誰が聞き耳を立てているか分からないので)」


「キャン(そうね。お客さん、2階にいらしてください。

先ほどのお礼を致します。そして、よかったら、私達を助けてくださいませんか?

報酬はもちろん払います)」


「ニャワァ(礼は要らない。いい女が困っていたら、それを助けるのは紳士の務め。

そしてまだ、根本的な問題は解決してないようだな。

俺が力になろう)」


「ワウン(こっちです、猫の旦那さん)」



俺は酒場の2階の部屋へと案内されたのだった。



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