567.【後日談6】大魔導士様 その2


・???視点



フロアボスを倒したことで現れる、宝箱と転移の魔法陣。

宝箱は、フロアボス討伐報酬。

そして魔法陣は、ダンジョンクリアの証。


この魔法陣に乗れば、外に出られるのだ。


約1000年間に及ぶ壮大なダンジョンアタックの結末は、こうもあっけないものだったのか。


宝箱の罠を解除し、宝箱を開け、中の魔道具を回収し、呟く。



「ニャワァ(結局、蘇生スキルの魔法書、手に入らなかったな……)」



俺としてはどうでもいい代物だけど、ヨツバが欲しがっていたのだ。母親を蘇生させたいのだ、と。

もし手に入れたのなら、俺がスキルを覚えて、ヨツバを蘇生し、ヨツバに蘇生スキル付与して渡していたのだけども。


さて、このダンジョンとも、おさらばだ。

俺は魔法陣に乗る。


一瞬、光に包まれ、一面草原の場所へと転移する。

俺の足元には、崩れたダンジョンの入り口がある。


ダンジョンの中身は別次元に存在する。

入口が壊れても、中の魔獣や住人には何の影響もない。

しばらくすれば、またどこか別の世界に、入口を開くのだろう。



「ケンイチ、これからどこへ行く?」


「ニャワワ(一番近くの北東56km先にある街の娼館しょうかんで女を買う)」


「……」



俺の左前足に寄生しているエイリアン、ヒギーが俺の好色っぷりに呆れている。

いいだろ別に。誰にも迷惑かけてないんだし。



「ダンジョンの中の街でも人間の女を買っていたようだけど、普通にモフられて添い寝してもらっただけじゃなかったか?」


「ニャワ(屈辱だ。この体だと人間を抱けないからな)」



ダンジョンの罠によって、猫化の呪いがかけられ、猫の体になってしまい800年。

この呪いの厄介なところは、呪われて10日以内に解呪しないと、呪いが魂に定着してしまうこと。

つまり俺は、一生野良猫姿で過ごすことになる。実に忌々しい。


ちなみにメス猫相手に興奮する事は出来なかった。

人間相手にしか欲情出来ない野良猫。

……普通に嫌過ぎる。



「ところでケンイチ、気づいているか?」


「ニャワワワ(あー、見られてるな。人工衛星10機に、木像30体。

それと四次元空間越しに近づいてくる人形が5体)」


「人工衛星は撃ち落とすか?」


「ニャワァ(やめとけ。無駄に敵対する理由も無い。相手の出方次第だ)」



もし敵対してくるのなら、俺のスキルでハッキングしてやるとしよう。


ヒギーに合図を送る。飛行モードだ。


俺の左前足が変形し、ヘリコプターの形状になる。


プロペラが高速回転し、俺の体はそのまま街の方角へと飛び立つのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(猫)視点



昼。ポカポカ陽気の昼寝日和。


雑貨屋クローバーのレジカウンターで、いつも通りまったり伸びていると、俺の監視に引っかかった反応が1つ。


過去50年間で存在しなかった生物が、いきなり出現したようだ。


……なるほど、ダンジョンから出てきたのか。

ダンジョン内部は別次元に存在するから俺の監視外。

だからいきなり出現したように見えたわけだ。


しかもこいつは、大魔導士様だ。


俺が昔、【エセ大魔導士】称号持ちだった頃に、本物の【大魔導士】称号持ちだった奴だ。

何で紫色の猫になってるのかは知らないが。


面白いスキルを持ってるな。

細菌や寄生虫を操るスキル、【錬菌術】か。


彼がその気になれば、病原菌を蔓延させて都市1つ崩壊させる事が出来るだろうな。

さすがにそんな事はしないだろうし、やろうとしたら止めるが。


ぴとっ。


赤い髪をした、永遠の20歳(自称)のヨツバが、俺の体に顔をうずめた。


すぅぅううううううっ。



「ぷはー」


「にゃー(俺を吸うんじゃない)」


「吸わなきゃやってらんないですよ!

聞いてください猫さん、リオン君が、ひげに増毛剤塗ってたんですよ!

普通逆ですよねぇ!? あれほど髭を薄くしなさいと私が言ってるというのに……」



どうでもいい。


というか他人の髭事情に、何でそんなに関心があるのだろう?

放っておけばいいのに。


再びヨツバが、俺の体に顔を埋める。

すぅぅううううううっ。


俺は体をひねってヨツバの頭をホールドし、ガジガジと頭にかぶりつく。

いい加減にしろよ。

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