566.【後日談6】大魔導士様 その1
言うまでもなく、人間とネコ科魔獣の価値観は違う。
例えば、人間がテーブルに広げた新聞紙は、ネコ科魔獣にとっては紙製のお布団である。
当然、寝心地を確かめるために乗る。
だからサバトラ猫のサバさんが、受付カウンターに置かれた新聞の上に乗るのは、何の疑問も無い。
「あら、構ってほしいのかしら?」
「みゃお(新しいお布団です!)」
受付に居たブロンズ髪の女性のナンシーさんは、サバさんのお尻をナデナデすることにした。
サバさんは気持ちよさそうにゴロゴロ言ってる。
俺はそんな様子を、受付カウンターの後ろの本棚の上から眺めている。
本棚は2mくらいの高さがあるので、登るのは難しい。
俺はジャンプで1発だけどな。
本棚の上は、ナンシーさんの掃除がきちんと行き届いているおかげで、チリ一つ無い。
天井が近くて、いい感じの
今日はここでお昼寝だぜ。
「サバさんは人懐っこいのに、猫さんはクールよね。
猫にも性格の違いってあるのかしら」
ナンシーさんがチラリとこちらを見て言う。
俺も割と人懐っこい方だと思うがなぁ。
サバさんが、構ってくださいと言いたげにナンシーさんの手に体をスリスリとこすりつける。
確かに、俺はそういった事はめったに行わないから、愛想が無いように見えるのかもしれないな。
ナンシーさんは再びサバさんの方を向き、わしゃわしゃする。
サバさんは気持ちよさそうに目を細める。
俺はあくびをして、体を丸め、昼寝をするために目を瞑る。
おやすみなさい。
◇ ◇ ◇ ◇
夜。中央広場にて、魔獣幹部による会合が行われる。
俺は木箱に入り、論文を読みつつ会合を見守る。
「んなぅ(では次ですぞ。今日の夕方、都市立博物館に展示してある、肉球魔王様の精巣の盗難未遂事件がありましたぞ)」
人間サイズの茶トラ白の毛皮なネコ科魔獣幹部、
「ガォー(そんなモン盗んで、どうするつもりだ?)」
コンテナサイズでサバ白の毛皮の、翼の生えたネコ科魔獣幹部、キメラが言う。
「犯人によれば、肉球魔王様の子どもを作って、魔獣都市マタタビの実権を取ろうとしてたみたいだよ。
馬鹿だねぇ、この都市は、実力主義だってのにさ」
ネコ科言語の代わりに人間語を話すのは、黒と茶色のまだらのサビ模様の普通猫サイズのネコ科魔獣幹部、化け猫だ。
「うみゅあ(魔獣都市マタタビでなくても、肉球魔王様の子どもとなれば政治的な力を得る事は容易。
どこかの都市や別の国で、成り上る事だって出来る)」
小判型の金貨を抱いている、金色のトラ柄の毛皮な普通猫サイズのネコ科魔獣、金の亡者が言う。
「アァー……配……布」
二足歩行の緑色の毛皮なネコ科魔獣幹部、ゾンビキャットは魔獣幹部達に紙の資料を配る。
資料には、今回の事件の詳細が書かれていた。
「ガゥ(へー。今回の事件は、他国の魔獣国の仕業かぁ)」
「んなん(まったく。権力が欲しいなら、正々堂々と我々魔獣幹部から幹部職を勝ち取れば良いものを。
このような
「ま、魔獣幹部になるためには、ネコ科魔獣であり、かつ、あたしらにタイマンで勝たなきゃ駄目なんだけどねぇ」
「うみゅう(ボクらが負けるとは思えない)」
うーん、そんな事言ってると、何かが起きる気がするぞ?
◇ ◇ ◇ ◇
・???視点
石造りの大広間にて。
俺の左前足が伸びる鎌状に変形し、フロアボスに絶え間ない斬撃を浴びさせる。
「馬鹿な、この私達が、この私達がァァアアアアアアアアアアーーーーー!!!????」
集合体タイプのフロアボス、悪夢の
「ニャワワ(てめーらの敗因はただ1つ……俺の仲間を
もう戻らない俺の大事な仲間、マーク、ヨツバ、スペンサー、ラルク、シュリィ。
あろうことか、彼ら彼女らを、このフロアボスは侮辱しやがった。
到底、許されることではない。
倒したフロアボスは例のごとく、ダンジョンに吸収され消えていった。
変形した左前足は、元の形に戻る。
我ながら、いつ見ても
かつての大魔導士様が、こんな紫色の野良猫姿に落ちぶれているとは、誰が予想出来よう。
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