563.【後日談6】さらばおいなりさんω その3


目の前に居る、自称ハーディス様に問いかける。



「にゃー(お前は誰だ)」


「あらあら、忘れてしまいましたかトミタミナモトさん。

あなたを1000年ほど前に転移させたのは私です。

そして今日、あなたは死んで死後の世界へとやって来たのです。

お疲れ様でした」


「にゃー(もう一度聞くぞ。お前は誰だ。

あと、ここは死後の世界じゃあない。

ただの神スペースだ)」



ハーディス様の本物が居る死後の世界は、そもそもの法則が違っている。

俺達が居るこの場所は、魂を可視化しただけの空間。いわばアパートの1室。

死後の世界は、魂の治療場所、兼、貯蔵庫。例えるなら国立の病院。

全くの別物だ。



「冥王ハーディスですよ。もう、忘れないでくださいね。

トミタミナモトは寿命を全うしたので、その魂と能力を回収しに来ました。

ここにサインをお願いしますね」



そう言って、スキルで宙に文字を描く。

契約スキルか。


俺の能力の全てを、目の前のコイツに差し出す、という文言が書かれている。

ははぁ、なるほど。



「にゃー(お前、詐欺師だな?)」



俺がうっかり、コイツの言う事を鵜呑うのみにして、契約してしまったら最後、力を全て吸い取られたことだろう。

丁度今、俺は手術の麻酔にかかるために耐性をかなり下げていて、抵抗力が減っている。

そこを狙われたわけだ。


そしてこの時点で、俺の悪意監視網が自動発動。

俺の四次元空間からホムンクルス達が出現し、偽ハーディス様に襲い掛かろうとする。



『待て』



ここに居ないはずの、物質世界の首輪型PCの中に居るはずの鑑定神ソフの声が聞こえた。

ホムンクルス達の動きが止まる。


そしてホムンクルス達の後ろのゴーレム達の中から、俺が作った覚えの無い、白いふわふわとしたゴーレムが現れる。



『情報を物質化、さらにゴーレム化して、トミタ、お前の四次元空間内に潜入させていた。

定期的に外界の情報を収集するためにな。

だがそれはどうでもいい』



俺にとってはどうでもよくないが。

四次元空間内をもう少しきちんと管理しておくべきか。



『ハーディス様を名乗る不届き者よ。貴様は超えてはならぬラインを超えたようだ。

この俺を怒らせて、生きて帰れると思うな』


「にゃー(って、結局粛清するんかい)」



ホムンクルス達を止めた意味、あったのか?


ソフの意識の入ったふわふわゴーレムが、拳を振り上げて、偽ハーディス様を殴ろうとした時、ふわふわゴーレムの肩に後ろから手がぽんと置かれた。



「喧嘩はいけませんよ」


「にゃー(お、本物)」


『ふぉぉおおおお!』



修道服姿で目を瞑った黒髪の女性。

本物のハーディス様が現れた。


ふわふわゴーレムは、ハーディス様の前に正座し、バンザイを繰り返している。

忙しい奴だな。



「さてと。あなたですね?

最近、多くの転移・転生者を騙して、スキルや経験値等を奪っているという方は。

私の名前を使っているのだとか」



ハーディス様はウインクするように右目だけ開けて、偽ハーディス様を見る。



「被害者を担当している神々から、私に文句が寄せられています」


「にゃー(おっと大変だ)」


「あががががが……」



こう見えてハーディス様は、冥王様。

トップオブ死神。


そんな存在に、まじまじ見つめられたらどうなるか。


まぁ、目の前の偽ハーディス様のように、動けなくなり、震えが止まらなくなる。

顔が真っ青だ。



「なので、回収させてもらいますね」



ハーディス様が、偽ハーディス様のあごをクィッと上げて、唇と唇を近づける。


偽ハーディス様の魂等がもやもやと口から出てきて、それをハーディス様が吸った。

ハ〇ーポ〇ターで見たことあるやつだ。

ハーディス様は、死神が出来る事なら一通りできるのだろう。

多分ノートに名前を書いたらそいつに心臓発作を起こさせるに違いない。


ハーディス様が離れると、偽ハーディス様の瞳の光が失われ、体がポロポロと砂のようにくずれていく。



「さてと、これから神々の元に赴いて、奪われた神ポイントを返却しないとです。

私の偽物がご迷惑をおかけしました、ごめんなさいね」


「にゃー(いえいえ)」



ハーディス様は目を瞑り、こちらを見ると一礼し、去っていった。



『てぇてぇ』


「にゃー(何だって?)」


『尊(とうと)いと言ったのだ』


「にゃー(何が?)」


『貴様には一生分かるまい』



それきり、ふわふわゴーレムは喋らなくなった。

たまにソフは、ヨツバみたいに意味不明な言葉を発するんだよな。


なお後日、偽ハーディス様の魂は、ハーディス様によって転生させられたらしい。

「悪いことしたらめっ、ですよ」と言われて。



◇ ◇ ◇ ◇



……。


…………。


……ハッ!


俺は目を覚ます。

手術室の天井だ。



「ガルルル(手術、終わりましたよ)」


「にゃあ(ごくろうさん)」



黒いヒョウ柄のネコ科魔獣の医者が、俺の顔を覗き込む。

麻酔の影響が残っているせいか、声が出にくい。


しばらくして麻酔の効果が切れたので、俺は耐性を元に戻す。


そして手術台からベッドに乗っけられ、ベッドごと手術室から出て、病室へと運ばれた。



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