560.【後日談5】肉球魔王様に挑め その9


挑戦者は残り2名ほど。


俺はお尻を突き出し、伸びをする。

次の相手は普通の人間の女。



『次の試合は、メルクリャ国侯爵こうしゃくエダ・リンド選手!』



カーン!



「肉球魔王様、私の祖国は、飢えと紛争で苦しんでいます。

助けてくださらないでしょうか」


「にゃー(そっちが支払う対価は?)」


「対価?」


「にゃー(まさかタダで助けてもらおうなんて、虫の良い事考えてないだろうな?)」


「私の領土に、銀鉱山があります。

どうかそれで手を打ってくださらないでしょうか」


「にゃー(話にならん。10秒経過だ)」



ぽい。

俺はリンド侯爵を投げる。


たまに他国からの挑戦者が、このように俺に要望や要求を言ってくる。

国のお偉いさんから頼まれているのだろう。


先ほどの奴はまだマシで、伯爵にしてやるから国に来いとか、世界の半分をくれてやるから手伝えとか、何故魔獣の味方をするのか人間を大事にしろとか、僕と契約して魔法子猫になってよ、とか。

俺に頼み事をするのはいいが、さすがに見返りの少ない仕事はやらないぞ。


カンカンカンカンカンカーン!

ゴングの音が鳴る。



『エダ選手も、国際協力の申し出をしてきたー!

しかし肉球魔王様はこれを拒否!

銀鉱山くらいでは心が動かないようだー!

あ、エダ選手、後で個人的な商談があるので来てくださーい』



俺が蹴った話を、橘若菜は乗るつもりのようだ。

商魂たくましい。



『最後の挑戦者は、カザド国出身、ドワーフのデック!』



背が低く、全身が黒いモヤで包まれた、灰色の小人だ。



「肉球魔王様よ、魔獣の頂点に立ち、少々天狗になっておるようだが、ワシが世界の広さを教えてやろう」


「にゃー(ほーん?)」



デックが地面を触ると、本来それほど広くないリング内部が、一瞬で地球規模サイズへと拡張した。



「【四次元空間】、このスキルは、収納に使えるだけではなく、空間を拡張する事も出来るのだ。

このようにな」


「にゃー(知ってる)」


『肉球魔王様が消えた!?』


『にゃあああああん(いや、居るよー。あそこの小さいの)』


『ズーム機能全開! 本当だ、肉球魔王様と挑戦者のデックが小さくなってる!』



このリングの外から見れば、リング内の俺達ごと小さくなったように見えるのだろう。

実際は、このリング内の空間が広くなっているだけだ。



「肉球魔王様はこの闘技場を錬金術で作ったようだが、ワシはもっと凄い事が出来るぞ?」



デックが両手をパンと叩くと、地面から建物が沢山沸いてきた。



『ドワーフは仮の姿。ワシは土の妖精王である。こと大地の術に関しては、この世界の誰にも負けぬ。

肉球魔王様、あなたは建物のジャングルから、ワシを見つけ出して倒す事が出来るかな?』



この声は地面の振動により発生させているようだ。

デックは、地面にうまい具合に溶け込んでいるらしい。

建物のジャングルから、と言ったのは、俺を騙そうとしているのかな。



「にゃー(10秒経過だ)」



さて、地面をスイスイ泳ぐように移動している奴は、俺をどうやって倒すつもりなのだろうか。

もし彼が直々に俺に触ろうとするなら、逆に掴んでポイッと投げるが。


さすがにそこまで馬鹿ではなかったようだ。

彼が作った土の巨人が地面から生えてきた。

そいつらが俺目掛けて突進してくる。


本気を出してもいいなら、この辺の地面や建物ごと全部分解してやるのだが。

それをすると土に溶けているデックもろとも分解してしまうので、自重する。


ならば俺の勝利条件は、このリング内の地面や建造物等を全て場外させる事、か。


よーし、やってやろう。


俺は、向かってきた土の巨人3体を猫パンチで壊す。


そしてそいつらをこねこね。

土の塊を作った。


塊を転がす。

【変性錬成】で作ったその塊は、周りの土の巨人や建物を巻き込んで、どんどん巨大化する。

おっきくなーれ。



「にゃー(ナナ~ナナナナナ~ナ~ナ~ナ、ナ~ナ~ナナ~ナ~♪)」



俺が転がす塊はどんどん巨大化し、デックが作った巨大高層ビルも、山も、島も、地表もどんどん巻き込む。


そして気が付けば、リング内の土地全てを巻き込んだ塊が出来た。

ちなみに俺自身は、錬金術で空気の足場を作り、そこに立っている。



「にゃー(にゃんこ星の出来上がりだ)」



ぽいっ!


俺は塊をリングの外に投げる。

良い大きさの塊だぜ。



「そ、そんな馬鹿なぁあああああああ!?」



デックは叫び声を上げる。



『あーっと! 肉球魔王様が投げた塊から、デック選手が離脱したー!

デック選手、場外! よって肉球魔王様の勝利ー!』



巨大な塊は魔獣都市マタタビの上空を飛び、宇宙まで飛んで行った。

別の有人惑星にぶつからないような軌道で投げたから、心配要らないと思う。


後片付けとして俺は、デックが勝手に拡張した空間を元通りにした。

まだ地面が空っぽなので、後で埋めなきゃだな。

面倒だからホムンクルスに丸投げするか。



◇ ◇ ◇ ◇



例年ならそのまま解散なのだが。

今年は閉会式を行う。


250名の挑戦者が、闘技場のリング外に集まっている。


今回の大会参加によって、名を売った者も沢山居るみたいだ。

見物に来た大商人の専属護衛になったり、貴族とのコネが出来たりと、この大会をいい具合に利用した者も居る。


俺としては、大会中の出店で何件か、良い商品になりそうな物が見つかったので、大満足だ。


閉会の挨拶のために、俺は木箱に乗る。



『それでは肉球魔王様から閉会式の言葉を頂きます』


「にゃー(これにて閉会。お疲れさん)」


『挨拶、軽ッ!』



閉会式が終わり、皆は闘技場を出る。

そして2日目の出店がにぎわう。

今日は何を食べようかなー。


こうして2日間の大会は、つつがなく終わったのだった。

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