559.【後日談5】肉球魔王様に挑め その8


□前書き□


元ネタ「SCP-040-JP ねこですよろしくおねがいします」 は"育良 啓一郎"様作「SCP-040-JP」に基づきます。 http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp



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ぽい、ぽい、ぽぽい。


挑戦者を次々に場外へと投げる。

次の挑戦者は、大型トラック大の茶トラ白のネコ科魔獣、猫トラ。



「んな゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!(去年の俺とは一味違うぜ! 体重1.5倍になったこの体の突進を食らえー!)」


「にゃー(太っただけじゃねーか!)」



去年よりも丸っこくなった猫トラを投げる。

ダイエットしろよ。

※自分の事は棚に上げている肉球魔王様。



『おおっと! あの巨体を軽々と投げるとは、さすが!

肉球魔王様の体力は無尽蔵かー!?』



これで135名。

だいたい半分消化したところか。

あと115名ほど残っている。


例年なら、もっとサクサクと片付いているはずなのだが。

今年は初参加の者が多いせいか、挑戦者の入れ替わりで1名1分くらい時間を食っている。

もうお昼ご飯の時間だぞ。


ぐー。


俺のお腹が、ご飯を寄越せと音を鳴らす。

出店のご飯の匂いがする。


仕方ないな。



「にゃー(今日の午前の部はここまで。これより2時間の休憩とする)」


『ここで昼の休憩だー! 2時間後にまた会おう!』


『にゃあああああん(休憩だよー。2時間後に再開するよー)』



休憩の案内をした。

参加者にもご飯休憩タイムは必要だからな。


俺は昼ご飯を求めてテクテク歩き、闘技場を出ることにした。



◇ ◇ ◇ ◇



闘技場付近の出店前にて。



「んなー(こら! ホタテの錬金調理は、資格を持ったネコ科魔獣以外はしてはいけませんぞ!)」


「まお(貝柱だけ使って、ちゃんと熱を通せばいいんだろ? 知ってるって)」


「んなぅ(そういう問題ではありませんぞ。そもそも貝類は我々にとって基本的に毒であり……)」



茶トラ白の魔獣幹部の火車が、白毛で顔と足としっぽが黒いポインテッドな魔獣が開いている出店の店主に注意している。


出店のルールとかは無いが、一応、取り扱い注意の食材とかはある。

取り扱い注意の食材に関しては、専門の講義を受講し、テストを合格した後、資格を与えることにしている。


結局、この出店の調理方法は問題無さそうだったが、店主が資格を持っていないみたいなので、商品は没収することになった。

まぁ可哀そうだから、俺がいくらかのお金を補填してやったが。


その代わりに没収した商品を分けてもらった。

まぐろとホタテのミックスフードだ。


う~ん、この風味がたまらない。

ビールが欲しくなるな。

さすがに飲まないが。


代わりに四次元空間から木皿と猫用飲料水入りボトルを取り出し、ボトルから水を注ぎ、ペロペロと飲む。

うめぇ。


ぞろぞろ。

水入り木皿に、ネコ科魔獣達が集まる。

そして俺を押しのけ、勝手に俺の水を飲む。



「にゃう(タダ水はいくらでも飲めますなぁ)」


「みゅ~(水分補給は大事にゃ! しっかり飲むにゃ~)」



しばらくするとネコ科魔獣達が離れるが、木皿は空になっていた。

俺は再び水を注ぎ、ペロペロと飲む。

うめぇ。


ぞろぞろ。

再び水入り木皿に、ネコ科魔獣が集まる。

俺を押しのけ、勝手に俺の水を飲む。



「なー(この一杯のために生きているといっても過言ではない)」


「みゅ~(水は命の源にゃ~)」


「にゃー(お前らいい加減にしろよ)」



人が怒らないからって、調子に乗るんじゃない。

人じゃなくて猫だが。


この後、3回くらい水を補充すると、満足したのかネコ科魔獣達は帰っていった。

給水所があるのに、何故そこで飲まないのか。



◇ ◇ ◇ ◇



昼食を済ませ、闘技場のリングの中で仮眠を取っていると、時間が来たようだ。



『お待たせしました! 肉球魔王様への挑戦、昼の部、これよりスタート!』


『にゃああああん』


『昼の部の最初の挑戦者はぁ! ……えーと、ねこです、さん?

それでは試合開始!』



カーン!

ゴングの音が鳴る。


目の前には、らくがきっぽい見た目の白猫が居た。



「みゃん(ねこですです。よろしくおねがいします)」


「にゃー(おう)」



ん? 幻術使いか?

観客の姿が全員、こいつと同じような見た目になった。


敵意や悪意、殺意や殺傷力が込められたスキル等は、自動ではじくようにスキルを設定してあるはずなのだが。

それらは全く込められていないようだ。


っていうか、俺の目の中に何か居る。



「みゃーん(既に肉球魔王! ねこですはお前の瞳の中に入っている!)」



なるほど。幻術じゃなくて、目に住み着くタイプか。


このらくがき猫は、相手の目の中に術を発動し、視覚に自分の姿を投影しているのか。

それも、他者が全員らくがき猫に見えるような形で。



「みゃみゃーん(ねこですの第3の能力! それはねこですを察知した者全てにねこですを見せる!

誰かがねこですの正体を言葉で喋っても発動するし、文書で書いてもその場で発動する!

つまりねこですは可愛いのだ! みんな見て見て、ねこですだよー)」


「にゃー(うるせぇ発狂しろ)」


「みゃあ!?(ぎゃぁあああああ!?)」



10秒経ったので、俺の目に勝手に入ってきているねこですに、真実を見せてやった。


この世界には、五感では存在を感じ取れないような、幽霊、妖怪的な者もたくさん居る。

普通に暮らしていたら見えないし、そうそう関わることは無いが。


だが錬金術を極めるにつれ、そういった者がはっきりと見えるようになる。

慣れずにこれらを見てしまった者は、正気を保てずに発狂するか、それらの者にさらわれたりしてしまう。

俺は慣れているから何ともないけどな。


精神的に参ってしまったねこですを掴んで、場外へと投げた。

ついでに奴が使った術も、乱してやった。


カンカンカンカンカンカーン!

ゴングの音が鳴る。勝負ありだ。



「みゃん(ねこです魔獣都市マタタビアイドル化計画がぁ……)」


『試合終了! ねこです選手、肉球魔王様を見つめただけで何もできなかったようだ!

途中、肉球魔王様や観客が、ねこですの姿に見えるようになった気がしたけど、気のせいか!

さぁ、続いての試合は!』



こうして昼の部の試合が続くのだった。


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