558.【後日談5】肉球魔王様に挑め その7


1日目の大会が終わり、夜の通りにて。


魔獣都市マタタビにやってきた、俺への挑戦権をかけた大会の参加者の多くは、明日の大会への挑戦権を獲得する事が出来なかった。

なので、もう帰っても問題無い。


だが、せっかく来たからというので、多くの者はすぐには帰らず、何日か旅行がてら滞在するようだ。


そんな参加者を相手に、沢山の出店が並んでいた。

俺とヨツバも、雑貨屋クローバーの出店を出していた。

売り上げは今のところ微妙だが。


俺達が出した出店の向かいには、焦げ茶色の子猫3体が出店をしていた。

『極上! 鬼牛の肉入りでジューシー!』と書かれたウェットフードを売っていた。



「みゃー(美味しいよー)」


「にー(鬼牛肉が高いなら、合いびき肉にすればいいじゃない)」


「まぁ(さぁさぁ、一口いかが?)」



向かいの子猫が出店している【大鍋錬金】で作ったウェットフードの店は、とても繁盛していた。


俺は、紙容器に入ったウェットフードをモグモグと食べる。

美味い。確かに、このジューシーさは癖になる。



「って猫さん、何で向かいの商売がたきの商品を食べてるんですか」


「にゃー(敵情視察ってやつだ)」



ふむ、なかなか面白い合いびき肉だ。

これは出店で終わるには惜しい品だ。

後で交渉して、雑貨屋クローバーの商品に加えさせてもらうとしよう。


こうして大会初日の夜は過ぎていく。



◇ ◇ ◇ ◇



翌日。俺は魔獣都市マタタビの外に、錬金術で円形の石製闘技場を作った。

およそ30万人を収容できるほどの巨大な闘技場だ。

といっても今日の大会が終われば即、取り壊す予定だが。


現在、魔獣幹部やホムンクルスに、観客や選手の誘導を任せている。

あと30分くらいかかりそうだ。

その様子を、闘技場の円周の壁の上から眺めている。


今日の250名の選手には、昨日の夜に、あらかじめルールの説明を行っている。

一応これから、映像音声配信魔道具で見ている者向けに改めて説明するつもりだが。


お、空飛ぶ大鍋がこっちにやってきた。

そろそろ放送の時間か。


よし、始めるか。



◇ ◇ ◇ ◇



俺は闘技場の真ん中にやってきた。

ドローンのような魔道具相手に、説明を行う。



「にゃー(ルールは例年通りなのだが、知らない者に改めて説明しよう。

戦闘不能になるか、この円の外に出たら負けとなる。

戦闘不能に関しては、審判が10カウントした時点、あるいは降参した時点で戦闘不能と判断する。

円の範囲に関してだが、1歩でも外に出たら、その時点ですぐ敗北扱いだ。

円の範囲は空中、地中も有効だから、空を飛ぶ魔獣や地中に潜る魔獣は注意するように)」



俺は円の円周に結界を張る。



「にゃー(今年は結界も使うとしよう。この結界は外から中、中から外への攻撃を通さないようになっている。

遠慮せず大技を撃って来てもいいぞ。俺は最初の10秒間は、最低限の防御で様子見するから、先手はどうぞ)」



いつもなら様子見などせずに、さっさと済ませるのだが。

橘若菜に頼まれて、敵の見せ場も作ってくれとのことだったので、妥協案として様子見を10秒することにした。

250名相手に10秒様子見、瞬殺するとして交代時間等も考慮し1名30秒くらい。

サクサク進んで125分か。

……面倒だな。


俺が喋った内容を、橘若菜が翻訳して話している。

さらに若ニャンが繰り返し伝えている。


そうこうしているうちに、時間が来た。



◇ ◇ ◇ ◇



『第1試合。中央都市チザンの人間奴隷、マルコ選手!

試合開始!』



カーン!

ゴングの音が鳴る。

うるせぇ。



「うぉぉおおおおおお!」



ムキムキのおっさんが、赤く光る金ぴかの剣を構えて突撃してくる。

俺はそっと右前足の爪で、剣を受け止める。


バキィ!



「なっ、俺のオリハルコンの剣がぁぁあ!」


「にゃー(はい10秒)」



ぽっふ。俺の肉球パンチ(手加減)が、おっさんの足に当たる。



「ぎゃぁあああああああ!?」



ゴロゴロゴロゴロ。

おっさんは転がってリングアウト。


カンカンカンカンカンカーン!

ゴングの音がうるさい。



『試合終了! 第1試合は肉球魔王様の勝利!

続いて第2試合。同じく中央都市チザン出身、ヴァンパイアのローリー選手!

試合開始!』



カーン!

良い所のお嬢様っぽい服装をした、顔色の悪い銀髪女性がスカートをつまんで一礼した。



「【漆黒】」



ヴァンパイアのお嬢さんのスキルで、闘技場が黒いモヤに覆われ、視界が真っ暗になる。

彼女はポケットからボトルを取り出し、ボトルの中の血を操り、剣を作った。


そして音も無く近づき、血で作られた剣が俺に振るわれる。

俺はそっと右前足の爪で、剣を受け止める。


バキィ!



「【時間停止】」



時間というのはあくまでも概念であり、物理的に存在するものではない。


このスキルは、時間が止まったかのように、周りや世界が止まり、自分だけが動けるようなご都合主義空間を作り出すスキルだ。


当然俺も使えるし、対策も、対策の対策の対策も、対策の対策の対策の対策の対策も、対策の(以下略)も用意している。

さて、どんな手で来るかな?


と期待していたが、普通にさっきの血の剣を振ってきただけだった。



「にゃー(捻りが無い。0点)」


「【時間停止】が解けた!?」


「にゃー(はい10秒)」



俺みたいに上位の神様になると、言葉を喋っただけでスキルをぶっ壊すことも出来る。


剣を振ってきた右手を掴み、そのままポイと投げる。



「【変化】! なっ、【変化】! 【変化】! きゃぁぁあああああ!?」



コウモリに変化しようとしていたようだが、スキルを乱すような意図で俺は触ったので、相手さんは5秒間、スキルをうまく使えない。

結果そのままリングアウト。


このように、神様を相手する場合は、なるべく神様には触らない方が良い。


俺の場合は妨害程度に留めるが、世の中には、触ったら、あるいは名前を言うだけでも、呪ってきたり殺してきたりする神様も居るからな。

触らぬ神にたたりなし、ってやつだ。



『試合終了! 第2試合も肉球魔王様の勝利!

圧倒的だ! このまま肉球魔王様の快進撃は続くのかー!?』



さて、実況している橘若菜は、いつまでそのテンションを保てるかな?

挑戦者は、あと248名もいるぞ?


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