557.【後日談5】肉球魔王様に挑め その6
・ヨツバ視点
昼の雑貨屋クローバーにて。
猫さんはレジカウンターの上で腹を天井に向けて昼寝中。
ネルちゃんはそんな猫さんをナデナデモフモフしている。
私はそんな1人と1匹を横目に、カフェスペースに座り、傍に設置された映像音声配信魔道具を見ていた。
『さて、午前の部で苦戦、失格してしまったアナタに朗報!
錬金魔獣の場所が分かるレーダー魔道具!
錬金魔獣を5秒間拘束出来る網の魔道具!
離れた場所から攻撃を撃てる持ち運び式の砲台魔道具!
これらをレンタルするなら大鍋商会!
大鍋商会で魔道具をレンタルして、他の参加者と差をつけよう!』
『にゃあああああん』
最近実力を付けてきた大鍋商会のCMが流れていた。
大鍋商会では、色んな魔道具の貸し出しも行っている。
それを今回の大会にかこつけてPRするとは。
うーん、商売上手だなぁ。
錬金術師としての実力で言えば猫さんはもちろん、マクドーン、カルロ、アレックス、そしてネルちゃんや私の方が、大鍋商会の商会長の橘若菜よりも上だ。
だけど、商売人のセンスは彼女の方が圧倒的に上のようだ。
35歳のOLだったという話だし、元研究職の猫さんや、元女子高生の私とは、そもそもの商売のノウハウの蓄積が違うのだろう。
もっとも、猫さんは本気を出していないだけなのかもしれないけれど。
『あと20分で、肉球魔王様への挑戦権をかけた大会の、午後の部が開催されます。
大会参加者は、速やかに所定の位置へと移動してください。
繰り返します、あと20分で……』
窓の外を見ると、羽を生やした大鍋がふわふわと飛んでいた。
そして背中に付いたスピーカーのような魔道具から、大会のアナウンスの音声を発していた。
大鍋はそのまま飛んで向こうに行った。
外のネコ科魔獣達は、昼寝の邪魔をされたのか、うっせぇな、という顔で飛んでく大鍋を見ていた。
その様子を見てたら、ネルちゃんがこちらにやって来た。
「ヨツバー、猫さんが起きないよー」
「そっとしておきましょう」
ネルちゃんは猫さんと遊びたかったようだけど、猫さんは眠気に逆らえなかったらしい。
仕方ないなぁ、とネルちゃんは代わりに私と遊ぶことにしたようだ。
レジカウンターを見ると、昼寝中の猫さんに近づく、3匹の黒ブチ模様のネコ科魔獣達が。
「みー(肉球魔王様だー)」
「んま(肉球魔王様のような、肉球魔王様でないような)」
「あんなー(レジカウンターで、へそ天で、コロリン昼寝!)」
3匹は、猫さんに体をくっつける。
「みー(いっしょにお昼寝だー)」
「んまぁ(いっしょのような、いっしょでないような)」
「あーんなっ(みんなで、いっしょで、コロリン昼寝! )」
「にゃー(うーん、暑苦しい……)」
猫さんにくっついた3匹は、いっしょにお昼寝を始めてしまった。
「今日遊ぶのはコレだよー」
「何ですかこの『猫クエすごろく』って」
ネルちゃんが出したすごろくは、猫になってポイントを稼ぐという、よく分からないすごろくだった。
どこで手に入れたんだろう。
2人で遊ぶのも微妙だし、私の近くでボーっとしてる私の護衛で元貴族のスペンサー君と、仕事が一段落したっぽいドワーフのリオン君を誘った。
◇ ◇ ◇ ◇
・ある挑戦者視点
くそ! あのサケ大助とかいう羽の付いたサケ顔の錬金魔獣!
「鮭の大介・小介、今のぼる」とかよく分からない呪文を唱えてきて、HPを削って来る!
それにカマス顔の二足歩行の錬金魔獣!
凄いパワーで腕を振り回していて、近づけない!
いったいどうやって攻略すればいいんだ……。
ん?
背中に鍋を背負った巨大猫が、向こうからぬっ、と現れた。
「な゛な゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーん(朝は油断したが、今度は負けないぜ!
くらえ【大鍋錬金】! 一斉射撃ぃ!)」
巨大猫の背負っている鍋の中から、大砲が現れ、サケ大助目掛けてバンバンババンバン! と弾を発射した。
大鍋商会が貸し出している大砲だ。
だが、あんなへなちょこ弾、当たるわけ……何!
最初に撃った弾が網状になり、サケ大助を地面へと固定する。
そして、サケ大助に弾が多段ヒットする。
『猫トラ選手、指定ポイントに到達! 肉球魔王様への挑戦権を獲得!』
猫トラと呼ばれた巨大猫がシュインと消え、場外へと転送されたようだ。
「俺も借りればよかったかなぁ」
そんな事を考えていると、カマス顔の二足歩行の錬金魔獣がやってきて、俺はタックルされる。
タックルで飛ばされた先にマットが現れ、そこにボヨーンとぶつかるが、全く痛みは無かった。
だが体力が0/3となり、失格になって場外へと転送された。
後悔先に立たず。
来年には、ケチらずに準備をすることにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇
・トミタ(猫)視点
……ん?
もう夜か。
どうやら雑貨屋クローバーのレジカウンターで昼寝していたようだ。
体を起こすと、ぶち模様の3体のネコ科魔獣がくっついていた。可愛い。
せっかくなので、3体のそれぞれのお腹をモフっていたら、迷惑そうな顔をして起き上がる。
そして、お尻を上げて伸びをして、逃げていった。
もっとモフりたかったのに、残念だ。
カフェスペースを見ると、ヨツバとネル、スペンサー君とリオン君が居た。
何やら盛り上がっているようだな。
「本棚の本を全部落とす! ポイント+500だよ!」
「負けませんよ。野良猫がやってきたので壁にマーキングです。ポイント+350」
「吾輩の番だ。ぐっ、汚れが目立ってきて、洗われた。ポイント-800」
「俺の番だ! 昼寝、2回休み……くっそぅ」
「にゃー(何やってんだ?)」
「『猫クエすごろく』です。猫になってクエストを消化し、ポイントを稼ぐんです」
よく分からないすごろくで遊んでいた。
宿屋に来た商人のお客さんが、ネルに譲った物だ。
売れ残りを押し付けたとも言える。
『お疲れ様でした。大会の午後の部はこれで終了となります。
計250名の選手が、肉球魔王様への挑戦権を獲得しました』
映像音声配信魔道具から、今日の大会の終了のお知らせが放送された。
魔獣都市マタタビには、大会の挑戦者が大量に来ている。
彼ら相手に、商売を始めるとしよう。
外には既に
出店の数は事前予約制なので限られているのだが、出店スペースは早い者勝ちである。
少しでも良い場所を確保しなければ。
「にゃー(いくぞヨツバ。用意していた食べ物を放出するぞ。稼ぎ時だ)」
「すみません、まだ時間がかかりそうです。後で行きます」
「にゃー(後なんて無いぞ。既に出遅れてるんだ。手伝ってもらうぞ)」
俺はヨツバに飛び乗り、頭をジョリジョリ舐めて、甘噛みする。
しばらくすると観念したのか、やめてくださいと言って、すごろくの駒を片付けて、俺を肩に乗せて外へ出る。
通りの空きスペースをどうにか見つけ、出店をパパッと作り、俺達は商売を始めるのだった。
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