551.【後日談5】縁起猫
昼の宿屋にて。
俺は受付カウンターの上で丸くなっている。
黒髪少女のネルはそんな俺の背中をなでなでしている。
今日はポカポカの昼寝日和だぜ。
「ネルー、買い物に行って来てくれないかしら?」
「はーい」
ブロンズ色の髪のおばさ……おっと寒気が。
ネルの母親のナンシーさんが、ネルに買い物リストの紙を手渡す。
ネルは紙を受け取り、ポケットに仕舞う。
そしてカウンターの上に居た俺を持ち上げ、ナンシーさんに手渡す。
「行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
「にゃー(行ってらっしゃい)」
ネルを見送り、俺はナンシーさんと2人きり。
いや、1人と1匹きり。
「周りを取り巻く環境は変化していくけれど、猫さんは変わらないわね」
ナンシーさんは俺を正面から抱っこしつつ、お尻をポンポンしてくれている。
くすぐったい。
「そういえば、肉球魔王様そっくりの猫は、幸せを呼ぶ縁起猫と聞いたことがあるわ。
商売人は、縁起猫を社長にすることで、商売繁盛を願うのだとか」
雑貨屋クローバーにも、時々猫さんそっくりの縁起猫が居たわね、とナンシーさんは言っている。
いや、それは俺だぞ。
「猫さんも縁起猫パワーで、宿の売り上げを伸ばしてくれないかしら?」
ナンシーさんは冗談めいた口調で言い、俺の頬をツンツンつつく。
昼寝の邪魔しないでくれよ。
口を開きナンシーさんの指を噛もうとすると、指を引っ込められる。
まぁ本気で噛むつもりは無かったが。
俺は昼寝をすべく、ナンシーさんの腕から飛び降りる。
そして伸びをしてから、管理人室までテクテク歩く。
そしてジャンプしてドアを開け、管理人室に入り、ベッドの下に潜り込む。
ここなら誰にも邪魔されないぜ。
羊毛で作られたモコモコの買い物袋を四次元空間から取り出し、そこに入る。
この狭さ、このふわふわ感、この薄暗さ。
素晴らしい。さーて、昼寝するぞー。
「みゃおー(おおっ、こんな所に、入り心地の良さげな買い物袋が!)」
「にゃー(おい来るな、やめろ)」
サバトラ猫のサバさんが、無理やり俺の入ってる買い物袋に、体をねじ込んできた。
狭い、暑い、息苦しい。こんなんじゃ昼寝出来ない。
結局俺は、買い物袋をサバさんに譲ることにした。
サバさんはそのまま袋の中で寝落ちした。
俺は管理人室のベッドの下から出て、ベッドの上に飛び乗る。
こうなったら布団で寝るぞ。
くんくん。干した布団の良いかおり。
ちなみにこのかおりはダニの死骸のにおいではなく、布団にしみ込んだ汗や脂肪が分解されて生じるにおいである。
俺は今度こそ昼寝すべく掛け布団の下に潜り込み、意識を手放すのだった。
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