549.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その20


・転移者 橘若菜視点



役場で、赤毛子猫イブが大人になった時に1000万マタタビを渡す手続きを終えて、次は大工ギルドでの手続きだ。


大工ギルドはログハウスっぽい建物で、チャールズと名乗るエルフの人が出迎えてくれた。


そして、錬金術のための改築希望だと伝えると、奥のギルドマスター室に連れていかれた。

チャールズはギルドマスターだったようだ。


ギルドマスターと、机ごしに向かい合う。


要望は、大鍋錬金をするための頑丈な部屋。

毒ガスが出ても大丈夫なように、換気機能も付ける。


あとは余った予算で、錬金術師向けの機材を導入する。



「せやなぁ。地上はスペースが限られてるさかい。地下に作るのがええな」


「にゃー(この端に、3Dプリンターゴーレムを設置しよう)」


「実験用の机とかは必要かいな?」


「予算内で出来るのなら」


「にゃー(実験台に、クリーンベンチ、冷蔵庫に冷凍庫。顕微鏡に培養用の保温機)」


「待って待って、何で猫神様が居るの」



いつの間にか、茶トラでふくよかな猫神様が机に乗り、勝手に注文をつけ足していた。



「実験室が作りたいわけじゃないから。顕微鏡も培養用保温機とか使わないし要らない」


「さよか」


「にゃー(なんだつまらん)」



話し合いの結果、地下に大鍋錬金用の、換気機能付きの広くて頑丈な部屋を1つ。

それから3Dプリンターゴーレム用の部屋を1つ作ることにした。



「にゃー(約束通り、改築費用は俺が出しておいてやろう)」


「そんな約束したっけ。改装費用は出してくれるって言ってた記憶があるけど」


「にゃー(そうだっけ?)」


「てか増築やな、これ」



用語の違いが分からない。

まあいいや。細かい事は大工ギルドにお任せしよう。



◇ ◇ ◇ ◇



大工ギルドを出て、次に向かったのは錬金術工房。


なのだけど、工房の目の前で、錬金術師のヴィクターが仁王立ちしていた。

ヴィクターの肩には、オレンジ色の猫が乗っかっている。



「来たな、橘若菜」


「私を待っていた? 何か用?」


「まずはこれを見ろ。解凍した魚だ」



ヴィクターが鉄の大鍋を取り出し、そこに魚を1匹投入。



「んあー(【大鍋錬金】!)」



オレンジ猫がそう唱えると、大鍋の底には、魚の骨、切り身、内臓が綺麗に分けられていた。



「猫に、スキルを教えたの?」


「俺じゃない。昨日の俺達のやり取りを、どこかのネコ科魔獣が見ていたようだ。

そのネコ科魔獣は【大鍋錬金】を習得し、習得方法を広めたのだろう。

現在、都市の3分の1のネコ科魔獣が、【大鍋錬金】を習得している」


「ふーん」



オレンジ猫は大鍋に入り、内臓をムシャムシャと食べる。



「で? 私への用と何か関係が?」


「大ありだ。これから役場へおもむき、都市中に緊急放送しなければならない。

『危険なので【大鍋錬金】で魔石の加工は行わないでください』とな」


「あー……」



魔石の加工。それは錬金術師の最初にして最大の壁といえる作業。


魔獣都市マタタビ以外の錬金術師の死因の第1位は、魔石の加工の失敗による爆発といったペナルティによるもの。


なので魔石の加工は、師匠の監視の元、弟子が学んでいくスタイルが主流なのだ。



「今はまだ、【大鍋錬金】はネコ科魔獣にしか広がっていない。

だから彼らが興味の無い、魔石の加工による事故は発生していないようだ。

だが、今後人間も【大鍋錬金】を習得していくだろう。

そうなった場合、魔石の加工による事故が頻発するだろう」


「それを未然に防ぐために、注意勧告するわけか」


「そうだ。行くぞ」



ヴィクターが手を上げると、空から翼の生えた巨大な猫が降りてきた。

巨大猫は、お腹と足が白くて、背中が黒の縞模様のサバ白猫だ。



「魔獣幹部キメラ。済まないが役場まで、俺達を連れて行ってくれ」


「ガルル(おー)」



キメラと呼ばれた大きい猫に、ヴィクターと私は咥えられる。

そして空を飛んだ。


オレンジ色の猫は、鉄の大鍋の中からこちらに向かって手(前足)を振っている。



「ちょ、待って、うわぁあああああ………!」



私の大鍋が、翼をバタつかせて飛んで付いてくる。


そして数分間の空の旅を経て、私達は役場へとたどり着いた。



◇ ◇ ◇ ◇



役場に降り立つとヴィクターはすぐに、私を役場の放送室まで連れ、変な部屋に入れられた。

そして魔道具のカメラの前で原稿を読まされる。



「えー、はじめまして、【大鍋錬金】スキルの創造者、橘若菜です。

ちまたで急速に広まっている【大鍋錬金】について注意事項があります。

魔石と、錬金使用難易度5レベル以上の物は、材料にしないでください。

発火や爆発、また毒ガスの発生など大変危険な現象が生じる場合があります。

錬金使用難易度に関しては……」



原稿を読む私の姿と、私の隣でパタパタ飛んでいる大鍋の姿が、皆が付けている首輪型魔道具を介して、魔獣都市マタタビ中に映し出された。

こうして私は、一躍有名になってしまったのだった。

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