547.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その18


・転移者 橘若菜の自宅前の庭にて



大金を貰った橘若菜は、すぐに自宅へと戻ってしまった。


慌てて戻ったせいか、普段は自宅の自室に仕舞うはずの羽の生えたミスリル製大鍋が、そのまま放置されていた。


大鍋が羽ばたいて自宅に戻ろうとしたところ、黒ブチ模様のネコ科魔獣達が、大鍋に集まってきた。

大鍋は、近づいてくるネコ科魔獣に気づいてそっと羽を仕舞った。


これで見た目は普通の大鍋だ。

羽をオモチャにされたくないので、大鍋はしばらくじっとしていることにした。



「みー(さっきの見たー?)」


「んま(見たような、見てないような)」


「あんなー(錬金術で、お鍋で、ケーキをぽん!)」



ネコ科魔獣の耳は良い。

近くに居なくても、人の話し声などは聞き取れる。

先ほどの橘若菜達の話を聞いていたようだった。



「みー(こうだっけ? 材料を投入してー)」



ネコ科魔獣の1体が、四次元空間から鬼牛の生肉の塊を取り出し、大鍋に投入する。



「みー(そして完成形を想像しながら【大鍋錬金】!)」



ぽん!


大鍋の中に、鬼ビーフジャーキーが出来た。

黒ブチネコ科魔獣が大鍋を覗き込み、喜ぶ。



「みー(成功だー)」


「んまぁ(成功したような、してないような)」


「あーんなっ(【大鍋錬金】で、鬼牛の生肉で、ジャーキーをぽん!)」



鬼ビーフジャーキーは回収され、ネコ科魔獣達はホクホク顔で帰っていった。

こうしてネコ科魔獣の1体が、【大鍋錬金】を習得した。


その様子を、他のネコ科魔獣達が見ていた。

後で彼らも自宅の鍋で、同じように試みたところ、なんと成功した。


本来、ネコ科魔獣は、錬金術に対して不向きな存在である。

というのも、錬金術の小難しい理論を嫌うから。

結果、錬金術スキルを習得する条件を満たさない者が多かった。


だが、【大鍋錬金】の習得条件は緩すぎるため、ネコ科魔獣でも習得してしまった。

もっとも、錬金術の小難しい理論が分かっていないため、レベルは上がらないのだが。


そして翌日、ネコ科魔獣が勝手に大鍋を使って【大鍋錬金】を行う光景があちこちで見られるようになる。



◇ ◇ ◇ ◇



・錬金術師 ヴィクター視点



俺はヴィクター。錬金術師だ。


昨日、はぐれの錬金術師から【大鍋錬金】というスキルを教えてもらった。

今日の仕事を大急ぎで済ませて、工房の自分の研究室でさっそくスキルの検証を行うことにした。



「大鍋の種類で、錬金時の特性が変わる、か……」



ミスリル製ならば消費MP減少と安定性の向上。

オリハルコン製ならば追加効果付与の成功確率激増。

アダマンタイト製ならば金属加工時の消費MP激減と硬度上昇。


木製ならば植物由来の錬金物の効果上昇。

氷製ならば水溶素材由来の錬金物の効果上昇。

石製、卑金属製、その他は特に特性変化なし。


そして、スキル詳細やレベル上昇によるメリットは、


――――――――――――――――――――――――

【大鍋錬金】

錬金術スキル。鍋に錬金術の素材を投入し、イメージした物体を作る。

消費MPは材料のレア度や加工難易度により変動する。


修得条件:【大鍋錬金】習得条件:大鍋に材料を投入し、完成形を想像しながら【大鍋錬金】と唱える。


Lv20未満:上記のみ。

Lv30到達:複数の大鍋で同時にスキル使用可能。

Lv40到達:不足分の材料をMPで補うことが出来る。

Lv50到達:1度作ったことのある物を錬金成功確率100%で作成できる。

Lv60到達:自分が本来作れない物を作成する成功確率が1%となる。

Lv70到達:完全ランダムに物を作成する

Lv80到達:失敗時のゴミ発生、爆発、汚染、浸食、崩壊、悪霊発生といったペナルティが発生しなくなる。

Lv90到達:【四次元空間】内の材料から作成可能。錬金物は【四次元空間】外の大鍋内に入る。

Lv100到達:全ての【大鍋錬金】所持者が作ったことのある物を錬金成功確率100%で作成できる。

ただしLv100に到達できるのは、【大鍋錬金】の原書を読んだ物のみ。

原書は、スキル作成者が持っている。

――――――――――――――――――――――――



色々とツッコミたいところはあるが、最後のLv100到達時の効果。

これが一番面倒だ。


【大鍋錬金】スキルのレベルが100に到達している者は、【大鍋錬金】を持つ他者の成果物を自分でも作ることが出来てしまう。

例えば、誰かが特許に関連した物を【大鍋錬金】で作ろうものなら、その特許の機密性が損なわれるということだ。


俺は幸い、このスキルの深淵を知る事が出来た。

だが、高レベルの【鑑定】を持たない者だとそうはいかない。


知らない間に機密情報を漏らす危険性がある。


その危険性を、錬金術師達に伝えなければならない。


錬金術工房の連中だけでなく、アレクサンドラ研究所と、他の都市の錬金術師全員に、だ。


やれやれ、面倒なことになってきたな。


とりあえず、橘若菜には、このスキルをむやみに広めないように伝える。

そしてまずは、錬金術工房の皆にこの情報を共有……



『大変ですよ! 工房の全員、会議室に緊急集合です!

都市中のネコ科魔獣が、【大鍋錬金】という謎の錬金術スキルを習得したとのニュースが!』



工房長カルロの慌てた様子の声が、部屋のスピーカーから聞こえてきた。

何てことだ。どうやら俺のアクションが遅かったようだ。

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