546.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その17


・転移者 橘若菜視点



今日は、これから外で、錬金術の実技演習だ。



「【大鍋錬金】!」



ぱん!


大鍋の中に入った木が、木炭になった。


今のところ、これが一番売れる。

単純な錬金術なのだけど、この都市の錬金術師はプライドが高いらしく、こういった単調な仕事は行っていないようだ。


出来た木炭は、鍛冶屋や料理屋で買い取ってくれる。

今から若ニャンと手分けして、それらの店に売りに行くのだ。



「ほぅ? 変わった錬金術を使うのだな」


「む?」



若ニャンを呼ぶために自宅に入ろうとしたところ、男の人に話しかけられた。



「俺はヴィクター。錬金術師だ」


「私は橘若菜」


「工房では見かけない顔だな。アレクサンドラ研究所の者か?」



アレクサンドラ研究所は、この魔獣都市マタタビにおける錬金術の2大派閥のうちの1つ。


斬新な魔道具の開発によって世界を驚かせている、新進気鋭の研究所。

前の世界で言うところのベンチャー企業といったところ。



「いいや? どこの組織にも属してないよ」


「はぐれの錬金術師か? まぁいい。俺にその【大鍋錬金】を教えろ」



何なのこの人。いきなり強引なのだけど。



「もちろんタダでとは言わない。

俺は錬金術工房所属の有能錬金術師だ。

お前が無能でなければ、この意味が分かるだろう」


「はぁ?」



何なのこの人。すっげぇ偉そう。


私がじーっと見つめていると、ヴィクターはやれやれと首を振った。



「……鈍い奴だな。

錬金術工房の錬金術師が、【大鍋錬金】を教わる代わりに対価を与えようと言っているのだ。

莫大な金、錬金術工房の英知の一部、あるいは働き口の紹介。

興味が無いわけではなかろう」


「そうすか」



でもなー。何か嫌な奴っぽい感じがするしなぁ。

こんな奴に貸し借りを作るのはなぁ。


とか考えてたら、ヴィクターが近づいてきた。



「おい、返事を早くしろ。時は金なりと言うが、俺から言わせれば金よりも重いものだ。

【大鍋錬金】を教えるのか、教えないのか、どちらだ」


「うーん、ま、いっか。教えよう」



もし何か嫌な事されたら、猫神様に泣きつけばいい。



「そうか。いつにする? 俺は明日は忙しいが、明後日から3日間はまとまった時間が取れるが」


「いやいや? 簡単だから、この場で教えるよ」


「……は?」


「まず大鍋を用意しまーす。そして材料を投入」



大鍋に、砂糖と卵、小麦粉とバター、お皿を入れる。



「そして完成形を想像しながらこう唱える。【大鍋錬金】!」



ぽん!

鍋の底に、お皿に乗った焼きメレンゲケーキ、そして余った材料のカスが見える。



「以上!」


「待て、【大鍋錬金】スキルの使い方は分かった。スキルの習得方法は?」


「えーと、【鑑定】」


――――――――――――――――――――――――

鑑定結果

【大鍋錬金Lv69】

説明:錬金術スキル。鍋に錬金術の素材を投入し、イメージした物体を作る。

――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――

鑑定結果

【大鍋錬金】習得条件:大鍋に材料を投入し、完成形を想像しながら【大鍋錬金】と唱える。

――――――――――――――――――――――――



「『大鍋に材料を投入し、完成形を想像しながら【大鍋錬金】と唱える』だってさ」


「ほぅ、なるほど。やってみるか。

まずは大鍋を作るとしよう、【変性錬成】」



ヴィクターは四次元空間から金属の塊を取り出し、ぐにゃっと形を変えて、大鍋を作った。



「作れる物の制限はあるのか?」


「【大鍋錬金】スキル無しでどうやって作るか分からない物は無理だと思う」


「なら、試しにポーションを作るか」



言いつつヴィクターは四次元空間から薬草と水入り瓶を取り出し、大鍋に投入。



「【大鍋錬金】」



ぽん!


ヴィクターの大鍋の底に、ポーション入り瓶が出来た。



「どうやらスキルを習得したようだ。感謝する」


「はいはい」


「礼はいくらだ? 金以外でもいいが」


「じゃあ1億マタタビちょーだい」



ちょっとしたジョークだったのだけど。



――――――――――――――――――――――――

ヴィクターから橘若菜に1億マタタビが送金されました。

――――――――――――――――――――――――



「では、さらばだ。俺は忙しいのでな」


「ちょ! 待っ! ……行っちゃった」



こんなにポンとお金くれるなんて。

錬金術師って、儲かるんだなー。


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