536.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その7


・転移者 橘若菜視点



夜。雑貨屋クローバーへ向かっている最中。


都市は微弱な橙色のライトが道を照らしている。


中央広場に近づくにつれ、猫の数が増えていく。


そして中央広場。



「わーお」



黒い縞模様と灰色の毛皮でお腹が白く、背中に羽が生えた、家かと思うほどのめちゃデカい猫が居る。

近づいたら踏みつぶされそう。



「ガォ!(明日は例のアレだよな)」


「んなー(ですな。在庫の確認もバッチリですぞ)」



デカ猫は、足元に居る猫達と会話している。

多分アレが、魔獣幹部の会合というやつなのだろう。

『魔獣都市マタタビでの暮らしについて』に書いてあった。


この都市は、魔獣幹部が集まる会合にて、政治的な決定を行っているのだそうだ。

周りの猫達も、「なうー(マジかよー)」とか「みゃああん(横暴だー)」とか言ってる。

国会でヤジを飛ばしているのと同じ感じかな?


政治には興味が無いので、会合の邪魔にならないように端っこを通り、そそくさと退散する



◇ ◇ ◇ ◇



雑貨屋クローバーの中に入る。

やはり猫まみれ。

というか朝よりも多い。


積まれた木製の買い物カゴの1つを取ろうとしたら、中に黒猫と三毛猫が入っていた。



「どっこいしょ」



猫入りのカゴを持ち上げて床に置き、2番目のカゴを取る。



「よっこらせ」



取った2番目のカゴをいったん地面に置き、猫入りのカゴを、元の積まれた場所に戻す。


猫とはいえ2匹となると、重い。

肩にニャンドラゴラが乗っているから余計に。


さて、買い物しようかな。


シュタッ!



「あんなー(わーい)」


「邪魔!」



床に置いたカゴに、トラ柄の猫が入ってきた。



「君、買い物カゴは遊び道具じゃないんだよ」


「あーんにゃ(えー)」



退くように言っても聞かなかったから、このまま買い物を続行。


カゴにポテチ(缶に詰められている)や、ビールびんを数本入れる。

あと、新しいお皿も欲しかったので2枚ほどカゴに入れる。



「あー!(新作のおやつだ!)」


「にゃああああああ!(おやつだー!)」


「こらそこの2匹、勝手にカゴにゼリー状の猫用おやつを入れない」



おやつは棚に戻した。

ニャンドラゴラとトラ柄猫の2匹に抗議された。

欲しかったら自分で買いなさい。


それにしても、この雑貨屋、シャンプーもマヨネーズも普通に売っている。

過去に転移・転生者が来て、開発したのだろう。


この都市では、ラノベで定番の知識チートが使えないかもしれない。


カゴをレジカウンターに持って行く。



「ぐびぐび」


「お会計お願いします」


「ん。ほい」



ちょびひげの低身長の男の子が、ウイスキーっぽいお酒のラッパ飲みを中断し、パッと手をかざす。

すると首輪型魔道具から、料金が支払われたと案内があった。



「ぐびぐび」


「あのー」


「ん、何? まだ何か用?」


「お酒の飲みすぎは体に悪いよ?」


「……飲まなきゃやってらんねーよ。お姉さんもお酒買ってんじゃん」


「よかったらお話、聞こうか?」



男の子が考え込み、じゃああっちに行こう、と窓際のカフェに案内してくれた。

私はカゴからビール瓶を1本取り出し、開ける。250mlだからちょくで飲めるっしょ。

男の子はお酒を一口飲んで、しゃべり始めた。



「職場に、好きな女の子が居るんだ」


「ほほーん」


「その子に何て言われたと思う?

『リオン君、お客様の前では、清潔感を出さなきゃ駄目よぉ』だって。

俺、毎日風呂に入ってるぞ。何でそんな風に言われなきゃならないんだ?」


「ふん、ふん」



適当に相槌あいづちを打つ。



「うーん、清潔と清潔感って違うよ?

まず、ヨレヨレの服は綺麗にアイロンして、あとはそのちょび髭はろうか」


「嫌だ! ヨツバお姉さまも勝手に俺の髭を剃るし、何でだよ!

ドワーフの髭は、男の証だぞ!」



ドワーフなんだ。鍛冶とか出来るのかな。



「剃った方が、その女の子に受けると思うけど」


「話は聞かせてもらいました! リオン君の髭を滅亡させます!

1日に1cm伸びるそのうっとうしい髭を、完膚かんぷなきまでに消し去りましょう!」


「げぇっ!? ヨツバお姉さま!」


「医療魔道具脱毛に行きましょう! 一生、髭が生えなくなりますよ!」


「嫌だー!」



赤髪の店員がどこからともなく現れ、それに驚いてちょび髭ドワーフ少年が飛び上がり、逃げてしまう。



「やれやれ。ショタに髭など言語道断ごんごどうだんです。

あなたもそう思いませんか?」


「はぁ……」


「リオン君は嫌がっているようですが、合法ショタの完成度を上げるためには脱毛は必須です。

ただ、手術には本人の同意が必要なのでコレにサインを書かせなければいけませんが」



赤髪の店員さんは、手術同意書と書かれた紙を見せびらかす。


この人、婚姻届けに無理やりサインを書かせようとするヤバイ女っぽい香りがする。

あまり関わり合いになりたくない。逃げよう。


ビール瓶に蓋をし直す。



「ごちそうさまでしたー」


「ご来店ありがとうございました、また来てください」



私は買い物品した物をカゴから四次元空間へと収納し、カゴを戻し(猫はそのままにしておいた)、そそくさと雑貨屋クローバーを去るのだった。

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