535.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その6
・転移者 橘若菜視点
首輪型魔道具の道案内機能のおかげで、道に迷うことなく、自分の家にたどり着いた。
肩にはニャンドラゴラの若ニャンが乗っている。
家に入り、店舗スペースを抜け、廊下を通り自室へ。
「はぁー、やっぱり慣れたこの部屋が一番だなぁ」
「にゃああああああん(昨日引っ越してきたばかりなのに、『慣れた』部屋? 変なのー)」
「色々あったんだよ」
おっと、若ニャン用の猫トイレを部屋に持ってこなきゃ。
変な場所でトイレされちゃかなわない。
私は自室を出て、プラスチック製の大きなトレーの形の猫トイレがある部屋に行き、猫トイレを持って自室へ戻る。
「はい、トイレはここにしてね」
「?」
猫トイレに、若ニャンを降ろす。
若ニャンは首をかしげる。
「にゃああああん(アイドルとニャンドラゴラは、う〇こもし〇こもしません)」
「いや、アイドルもトイレはするでしょ」
「にゃあああああん(だからー、ニャンドラゴラは老廃物を排泄しない体なんだってば)」
「えー……」
変わってる子だな、と思ってたけど、ここまでとは。
外の猫達も、トイレしないのかな?
※します。
「じゃあ君の世話は全然、必要無いってこと?」
「にゃああああん(ゆーにーど。1日2回の水やりを所望するー)」
水やりって、トマトの
「それじゃ、お皿にお水を入れておくから、自分で飲んでね」
「にゃああん(おー、さんきゅーそーまっち)」
机の引き出しからおつまみ用の皿を取り出し、部屋から出て廊下へ。
廊下の洗面所っぽい場所の蛇口に手をかざすと、水が出てくる。
水を手ですくって飲んでみる。
変な臭いとかはしない。これなら大丈夫かな。
皿に水を注いで、部屋に戻る。
若ニャンはベッドの上で横になっていた。
ってか寝ていた。
「はいお水、床に置いておくよ」
「すぴーすぴー」
若ニャンの横に転がり、ロキサス様ぬいぐるみを抱えて、祈る。
ロキサス様、ロキサス様。私に何か伝え忘れてない?
使命とか任務とか、何か目的があって私を異世界転移したんでしょ?
それを伝えてもらってないと思うのだけど?
私の意識は、いつの間にか遠くなった。
◇ ◇ ◇ ◇
・転移者 橘若菜視点
何も無い、白い床がどこまでも続く空間。
私は、金髪イケメンなロキサス様と向かい合って立っていた。
ということは、ここは神の空間かな。
「こんにちは。さっそく何かお困りでしょうか?」
「ロキサス様、私は何を為せば良いの?」
「うーん、何を為せば、と……申し訳ありませんが、神であろうと人の人生にいたずらに干渉することは許されていません。
どうぞ、ご自身で納得のいく答えを見つけ出してください」
「じゃなくて。ロキサス様は私を転移した目的があったんじゃないの?」
ロキサス様は、んー? といった顔をして考え込むポーズをとる。
かっけー、イケメンって何しても映えるわぁ。
「あぁ、そういうことですか。ご心配はいりません。
魔王を倒せ、とか、世界を発展させろ、とか、そんな事は言いません。
橘若菜さんを異世界転移したのは、単なる気まぐれです。他意はありませんよ」
「じゃあ好き勝手にしてもいいと?」
「えぇ」
よし、
「っと、そろそろ時間ですね。
何か困った事があれば、いつでも聞きに来てください。
では、また会いましょう」
ロキサス様はニコニコして手を振る。
視界が歪み、気が付けば私はベッドで寝転がっていた。
◇ ◇ ◇ ◇
・転移者 橘若菜視点
ベッドから起き上がり、窓の外を見ると、すっかり暗くなっていた。
私は部屋の明かりをつける。
部屋の天井の蛍光灯っぽいアレも、魔道具なんだろうな。
「にゃあああああん(まぶしー)」
「ごめんよ」
ニャンドラゴラはベッドの下に潜ってしまった。
放っておくことにする。
机の上に置いてあった『魔獣都市マタタビでの暮らしについて』を手に取り、ベッドに座ってパラパラと読む。
都市の地図、主な施設とその機能、おすすめの店の一覧。
また、都市のルール、禁則事項、都市の運営の仕組み等々。
知っておけば困らないであろう事が広く浅く書かれていた。
食料がタダで配布されている事もしっかりと書いてあった。
『魔獣都市マタタビでの暮らしについて』を机の上に戻す。
……。
…………。
「……全然眠くない」
時計を見ると12時。
だというのに、目は冴(さ)えてしまっている。
「散歩に行こうかな」
『魔獣都市マタタビでの暮らしについて』によると、雑貨屋クローバーは24時間営業らしいし。
おつまみとお酒でも買いに行こう。
「にゃあああああん(ついてくー)」
「はいはい」
若ニャンがベッドの下から飛び出し、ズボンにくっついてきたので、肩に乗せてあげる。
そして私達は家を出て、夜の都市を散歩することにした。
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