533.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その4
・転移者 橘若菜視点
肩の上に乗った緑草猫の案内で、雑貨屋クローバーなる店の前にたどり着く。
「大きい」
雑貨屋と聞いていたから、てっきり小さなお店かと思ったけれど。
普通にサッカーコートの半分くらいの大きさのお店だった。
建物の中に入る。
販売スペースは、さすがに外観の半分程度の大きさだ。
裏には倉庫とかあるのだろう。
※倉庫は別の建物があります。
「おい小娘、肩に乗った猫の土を外で落とせッ!
店が汚れるだろッ!」
「おっと、ごめんなさーい」
耳長の茶髪イケメンに注意される。
エルフというやつだろう。
店の外に出て、緑草猫の体に付いている土を払ってあげる。
「にゃあああああん(やめろー)」
「いや、汚れを取っているだけだからね」
「にゃああああ(植物魔獣のまとってる土は、人間で言うところの服だぞー。
はだかにする気かーえっちー)」
「植物魔獣?」
じゃあ、この緑草猫は植物なの?
てっきりポケ〇ンみたいに頭や背中に植物生やしただけのモンスターだと思ったのだけど。
土を払い終わったので、再び店内に入る。
ガラスのショーケースには、猫の餌っぽいのが並んでいる。
ショーケースの上で昼寝している猫や、試食と書かれているボタンを押して餌を数粒とり出して食べる猫も居る。
壁には、何枚かチラシっぽい物が貼ってある。
『本日キャッシュバック10%キャンペーン!』
『購入金額1000マタタビごとにスタンプ1つゲット!
スタンプが5個溜まったら、豪華景品が当たるかもしれない福引(ハズレなし)が出来るよ!』
『商品を店から持ち出す、四次元空間内に仕舞う、といった行為をした時点で、購入に同意したものとして料金を頂戴します。
所持金以上の金額の商品を持ち出そうとした時点で、警告が鳴ります。
警告を無視した場合、お巡りさんを呼びます』
キャッシュバック案内、福引、万引き注意……異世界の情緒も何もないね。
「にゃああああああん(飲食コーナーはあっちー。ごーすとれいと)」
「はいはい」
窓際に並んでいる木製丸テーブル席へ向かい、そこに座る。
そしてメニュー表を見る。
人間用とネコ科魔獣用、の2種類のメニューがあるらしい。
人間用メニューを見る。
こ、これは……!
「キムチ
そんな馬鹿な、異世界にそんな食べ物、あって良いはずが……」
「キムチ納豆豆腐1つ。ご注文は以上でよろしいですか?」
「にゃあああああん(臓物ピサくださいなー)」
「はい、臓物ピザが1つ。お会計は別々ですか?」
「にゃあああああん(もちろん別々でー)」
赤毛の少女がサッとやってきて、注文を取ってどこかへ行ってしまった。
「って、注文キャンセル!」
『ぶぶー。警告です。一度決定された注文は取り消し出来ません。
もし店員が悪質な対応をした場合は、店長が責任をもって対応致します。
しかしながらお客様に非があると判明した場合は、お巡りさんに通報致します』
首輪から、そんな警告が発せられた。
ぐっ、仕方ない、朝ごはんはキムチ納豆豆腐で決定だ……。
「お待たせしました。キムチ納豆豆腐と臓物ピザです」
「早っ!?」
「??」
赤毛の店員さんは、首をかしげながら、サッとどこかへ行った。
吉〇家もビックリの提供スピードだ。
あらかじめ作っておいた料理を、どこかに置いてあったのだろう。
テーブルに置かれた料理は、韓国のりっぽいのが乗ったキムチ納豆豆腐と、肉の上に肉が乗った頭の悪そうな料理。
お箸(はし)とフォークとスプーンも置いてある。
「ま、とりあえず食べよう。頂きます」
「にゃあああああん(うまーい。このりばー(肝臓)ところん(大腸)の、何とも言えない香りがたまらないよー)」
肩に乗っていた緑草猫は、いつの間にかテーブルの上に乗り、肉を犬食いしていた。
私も異世界初で人生初の組み合わせを
「美味ッ!? この豆腐美味ッ!? キムチ美味ッ!? 納豆美味ッ!?」
ビールや日本酒が欲しくなるところだけど、朝から飲むのはさすがに自重した。
◇ ◇ ◇ ◇
・トミタ(肉球魔王様)視点
レジのカウンターでのんびり横になっていると、ヨツバがニコニコしながらこちらにやって来た。
「やりましたよ猫さん! キムチ納豆豆腐、最初の注文です!」
「にゃー(やったぜ)」
俺が提案したメニュー、キムチ納豆豆腐。
ビールが進むお勧め料理の1つ。
だが、この店のカフェスペースで食べる人の大半は、おやつ目的でパンケーキ等の洋菓子を注文する。
たまに食事目当てで来る人もいるが、キムチ納豆豆腐を頼む人は居なかった。
メニューに載った写真で敬遠している人が多いっぽい。
「ってか、あれ異世界転移の人ですよね。肩に変な魔獣を乗せていましたけど」
「にゃー(あぁ、ニャンドラゴラ・タイプ
ニャンドラゴラは、最近魔獣都市マタタビに住むようになった魔獣達。
体の構造的には植物魔獣だが、本人的にはネコ科魔獣のつもりらしい。
「にゃー(この店に来たから、てっきり俺の助けを必要としているのかと思ったが。
単にごはんを食べに来ただけっぽいな)」
「猫さんは、甘やかし過ぎですよ。
世話を焼くんじゃなくて、機会だけ与える方がいいんじゃないですか?
機会を活かすも殺すも本人次第ですし」
「にゃー(多すぎる選択肢は、混乱させるだけだと思うがな。
ある程度の方向性を示してやるのも必要なんじゃないか?)」
「うーん、余計なお世話だと思いますけどね」
俺達が雑談している間に、橘若菜とニャンドラゴラは食べ終わり、店を出たようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます