532.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その3
・転移者 橘若菜視点
……。
…………。
……はっ!
今何時!?
私は起き上がり、時計を見る。
って9時半んんんん寝過ごしたぁ!?
遅刻だーー!?
急いで出社しないと!
ハンガーからワイシャツとスーツを取り、着替えようとして、いや、その前に遅刻する旨を電話しなきゃ……
スマホで会社の上司の連絡先へと電話をかける。
……。
……ん? 繋がらない。忙しいのだろうか。
「って、圏外? そんなはずは……あ、そうか」
昨日の記憶が蘇る。
私は異世界転移したんだった。
「はぁー」
私は何をやっているんだか。
と、安心したら、トイレに行きたくなった。
自分の部屋から廊下へと出る。
この家に、トイレはあるかな、っと。
扉の1つを開ける。
ここは倉庫。
扉を閉め、別の扉を開ける。
ここは脱衣所っぽい。
その先はシャワー室だ。
脱衣所を出て、別の扉を開ける。
キッチンっぽい場所だ。
うおー、もれるー!
トイレは、トイレはありませんかー!
次の扉を開ける。
こ、これは!
プラスチック製の大きなトレーに、砂らしき物が入っている。
これは猫トイレ!
って、ちがーう!
人間のトイレ! 人間のトイレを探してるの!
隣の部屋に、ようやく人間用のトイレを見つけた。
やれやれ、ダムが決壊するところだったよ。
トイレは、壁に付いている青い宝石に手をかざすと水が流れる水洗式。
鑑定すると名前通りのトイレ水洗魔道具ってやつだった。
すっきりしたらお腹が空いた。
昨日から何も食べていないや。
自分の部屋に戻り、首輪型魔道具を装着する。
お金は1万マタタビ入っているらしい。
これで食事しろ、ってことなのかな。
後で気づいたことなのだけど、食料はタダで配給されるので配給場所まで取りに行くように、と『魔獣都市マタタビでの暮らしについて』にしっかり書いてあった。
◇ ◇ ◇ ◇
玄関に用意してくれていた私の靴を履き、家を出る。
庭には猫が5匹ほど転がっている他、枯れ草が1本だけ生えていた。
枯れ草の横を通り過ぎようとした時、その草がもぞもぞ動き、ぼこっ! と枯草の下から何かが出てきた。
「にゃああああん(あいむ、さーすてぃ)」
「なぁにこれ」
頭に枯れ草の生えた、土が付いた白猫? が私に訴えかける。
「にゃああああん(だからー、のど乾いたんだってば)」
「いや知らんし」
周りの猫は、興味無さそうにあくびをしている。
私は、庭にある蛇口っぽい魔道具に手をかざす。
じゃー、と水が出てくる。
枯れ草猫が、水が流れている所にやって来る。
「にゃああああん(うぉー水じゃー)」
枯れ草猫は、蛇口から出る水を、口を開けて飲んでいる。
いや、猫って普通は舌を使って飲むはずでしょ。変なの。
枯れ草猫の頭の枯草が、どんどん緑色を取り戻す。
「にゃああああ(ごちそうさま!)」
「もういいの? 水止めておくよ」
蛇口に再び手をかざすと、水が止まる。
「にゃああああん(お礼に、何か1つだけ願い事をかなえてあげるー)」
「お腹が空いたから、1万マタタビ以内で食べられるお店に案内してくれる?」
「にゃああああああん(おっけー。あいりこめんど雑貨屋クローバーず臓物ピザ)」
え? 何だって?
よく聞き取れなかった。
「にゃああああん(道案内はまかせろー)」
言いつつ、私に飛びつき、私の体をよじ登り、枯れ草猫が肩に乗る。
「にゃあああああん(たーんれふと、あんどごーすとれいとあんてぃるゆーげっとぅざせんとらるすくえあー)」
「え?」
「にゃああああん(だからー、ここを左に曲がって、中央広場までまっすぐ行けっていってるだろー。
二度同じ事をいわせないでくださいー。一度でいい事を二度言わなきゃいけないってのは、そいつが頭悪いってことだぞー)」
何この枯れ草猫、ムカつく。
いや今は緑草が頭に生えてるから緑草猫?
とにかく、彼(彼女?)の案内に従って、お店に向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます