531.【後日談5】異世界転移! 魔獣都市マタタビ その2


・転移者 橘若菜視点



ヨーロッパっぽい雰囲気の建物が並ぶ街並み。

だけど、猫が多すぎる。

ここは猫島?



「にゃー(こんにちは。ようこそ魔獣都市マタタビへ。俺はトミタだ)」



後ろから声をかけられた。

振り返ると、茶トラの太い猫だった。

日本語で『橘若菜様ご案内』と書かれたハチマキを付けている。


そして猫が何を言ってるのか、何となく理解できる。


これは多分、ロキサス様が言語理解能力をくださったのだろう。

猫語が分かるとか凄すぎる。



「にゃー(よーし、さっそく用意した建物に向かうとしよう。スタイリッシュ四次元ワープ)」



※スタイリッシュ四次元ワープ。それは相手が瞬きする間に四次元ワープする手法である。ヨツバが考案。

ただし相手がほとんど瞬きしないドライアイのような人だとやりづらい。


景色が、一瞬で室内に変わった。

石の床、レンガの壁で出来た室内。

そして木製のカウンター机と、空の商品棚が数点。

ここは?



「にゃー(ここは、経営困難になって持ち主が売却した店だ。

今居る場所は店舗スペース。

改装する際には、俺に声をかけてもらったら、こちらから改装費用を出すぞ。

さて、部屋に案内だ)」


「店舗ってことは、私、ここで働くことになる?」


「にゃー(いや? 空いている所がここくらいしか無かったんでな。

もちろん、家賃等は取らない。柵で囲われた庭も使っていいぞ。

あと、この都市では働かなくても毎日お小遣いベーシックインカムが入るぞ。

贅沢な暮らしをしたいってのなら、どこかへ就職すればいいが)」



言いつつ猫がテクテク歩いて、奥へ向かう。

私も付いていく。


そして金属製のドアのレバーにぴょんと飛びつき、ドアを開ける。


部屋の中は、どこかで見たことあるような壁紙や床、ベッド、机、そしてラノベの詰まった本棚。



「うっそ」


「にゃー(橘若菜の住んでた部屋を、できるだけ再現してやったぞ)」



部屋の広さは多少広くなっているけど、間違いなく私が一人暮らししていた寝室と一致する。


この猫がやったの?

一体何者?



「にゃー(さて、俺の案内はここまでだ。

生活の詳細に関しては、『魔獣都市マタタビでの暮らしについて』という本を机の上に置いてあるから、それを読むといいぞ。

それか、都市に居る奴らに聞けば大抵の事は答えてくれるはずだ。

あと、橘若菜は俺の客人扱いにしてあるから、ネコ科魔獣の世話に関しては行わなくても良い。

ここまでで、何か質問はあるか? 無ければスキルの付与を行うが)」


「ええと、トミタさんは一体何者?」


「にゃー(ん? ロキサス君から聞いてないのか? 俺は錬金術の神をやっている者だが)」



まさかの神様だった。

しかもロキサス様と立場が同等かそれ以上っぽい。



「にゃー(じゃあスキルの付与を行うぞ。

【鑑定Lv30】、【四次元空間Lv30】、【神託Lv30】

【加速錬成Lv30】【変性錬成Lv30】【分離錬成Lv30】

【経験値100倍】【習得Lv100】【MP消費軽減Lv30】

と、まぁこんなところか)」



猫神トミタ様がポフポフ前足で私の足をタッチし、呟く。

今のがスキルの付与?

じゃれついているようにしか見えなかったけど。



「にゃー(ベッドの上に置いてあるロキサス君ぬいぐるみに祈ると、彼の神スペースに招待されるぞ。

1週間に1度程度祈るといい。それじゃあな)」



猫神トミタ様は部屋を出ていこうとして、「にゃっ(おおっと、大事な物を忘れるところだった)」と振り返る。



「にゃー(はい、これが首輪型魔道具だ。

買い物に使用する電子マネー支払いにも、この首輪を使うからな)」



銀色の首輪を渡された。

キャッシュレス決済導入って、色々とツッコミどころがある。


さてと、猫神トミタ様は帰ってしまった。


これから何をすればいいのやら。


とりあえず、本棚のラノベを1冊取り出す。

主人公が最初の町に着いたら、何やっていたんだっけ。


パラパラ。


まずは宿の確保、ギルドで素材を売却して、ギルドに登録、ね。

なるほど。


1巻を読み終えた。今後の予習のために2巻も読むとしよう。


パラパラパラパラ。


いやー、面白い。ラノベは最高。

夢がある。冒険がある。人間のドラマがある。

何度でも読めちゃうね。


私は3巻に手を伸ばす。


パラパラパラパラ……


ん? 部屋が暗くなってきた。

私は部屋に取り付けられたスイッチを押す。


よーし、明るくなった。

魔道具バンザイ。


パラパラパラパラ……パラパラパラパラ……

本をめくる手が止まらない。

現在10巻目。


あれ? このラノベの11巻って出てたんだ。

私、持ってなかったよね。


あの猫神トミタ様が用意してくれたのかな。

ありがたい。


パラパラパラパラ……パラパラパラパラ……


……すやぁ。



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(肉球魔王様)視点



夜。大魔導士の森の自宅にて。


俺はロキサス君を、自分の神スペースに招待することにした。


自分の神スペースに入る。茶室っぽい部屋だ。



「にゃー(さて、メッセージを送るか。『今日のフィードバックを行うぞ』と)」



ロキサス君が、パッと現れた。

ふむ、すぐに来るとは、真面目だな。好印象だ。



「お疲れ様です、トミタ様」


「にゃー(トミタでいい。それほど年は違わないからな。お茶とお菓子をどうぞ)」



水ようかんと抹茶まっちゃを出す。

だがロキサス君は手を付けない。

緊張してるのかな?


まぁいいか。



「にゃー(まずは異世界転移した橘若菜についてだが、【保護期間365日付与】をきちんと付与していたな。

これにより1年間、ロキサス君が死なない限り、橘若菜はまず死なない。

きちんと付与して、偉いぞ)」


「いえ、学園で習った事をやっただけですので」


「にゃー(試験が終わった後も、神ポイントをケチらずにきちんと保護期間を付与するといいぞ。

さて次だが、【言語理解】以外のスキルは付与せずにこちらに寄越したな、これはどういった意図だ?)」


「スキルの付与は、初期スキル数が少ないほど成功します。

あまり初期スキルを多くすると、トミタ様のスキル付与の邪魔になるかと」


「にゃー(ふーん。俺はきちんとスキル付与を施したが、神によっては約束を破って、転移・転生者をほったらかしにするからな。

あまり現地の神を信用し過ぎると、痛い目を見るから気を付けるように)」


「ご忠告、感謝します」



ま、こんなところか。



「にゃー(今日はこの辺にしよう。来週も同じくらいの時間にフィードバックを行うぞ)」


「はい。本日はありがとうございました。」



ロキサス君はお茶を飲み干し、水ようかんを四次元空間に仕舞い、帰った。

和菓子は口に合わなかったのかな?

次はケーキを用意するとしよう。

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