529.【後日談5】ソテー
昼。市場にて。
俺は白猫リリーと一緒に、金髪エルフのアウレネが持つバスケットカゴの中に居た。
元々は買い物カゴだったのだが、四次元空間を使えば手荷物が無くなる。
なので俺達を運ぶための道具と化している。
「みゅ~(おおっ、マグロドラゴンの肉があるにゃ! めったに手に入らない珍味にゃ! 絶対に買うにゃ~!)」
「予算が足りないです~」
「みゅ~(アウレネは貧乏だにゃ~。おいらが買ってやるにゃ!)」
アウレネが持っているお金は、ベーシックインカムで得たお金のみだ。
一方、リリーやオリバー君は中庭ダンジョンに潜って稼いだりしているので、かなりお金持ちなのだ。
リリーはカゴから飛び出し、タタタッと海鮮売り場へと駆けていく。
「にゃんこさんは、何か欲しい物ないですか~?」
「にゃー(自由が欲しい)」
「市場で買える物じゃないと駄目です~」
まぁ実際は、何が欲しいとか別にないんだけどな。
肉が包まれた紙を咥えて、リリーが戻ってきた。
「みゅ~(マグロドラゴンの肉、買ってきたにゃ~)」
「それじゃあ今日のお昼は、マグロドラゴンのソテーを作りましょうか~」
「みゅ~(おいらの肉には小麦粉とかまぶさなくてもいいにゃ。普通にそのまま焼くにゃ)」
「にゃー(というか猫に小麦粉は余計だな)」
リリーがカゴに戻り、アウレネは他に必要な物を買っていく。
そして買い物が終わった俺達は、市場から離れ都市を出て、大魔導士の森へと向かう。
◇ ◇ ◇ ◇
俺の自宅前の庭にて。
シルフ婆さんがスクワットしていた。
最近筋トレが流行ってるのか?
「おかえりアウレネや」
「ただいまです~。マグロドラゴンの肉を買いましたよ~。さっそく調理しましょ~」
ホットプレート型の魔道具を、木製テーブルに置く。
魔道具の上に、ステーキサイズにスライスしたマグロドラゴンの肉を乗せていく。
アウレネとシルフ婆さんが食べる分には小麦粉がまぶされている。
「火力は中火ですかね~」
「みゅ~(強火が良いにゃ! 表面だけ焼いてレアで食べるのにゃ~)」
「にゃー(ミディアムもウェルダンも最初は強火だぞ。その後に弱火を何分入れるかで変化をつけるんだ)」
「じゃあ強火です~」
ささっと強火で両面を焼き、弱火に切り替えて焼く。
「はい、リリーちゃんの分です~」
「みゅ~(いただきまーすにゃ!)」
リリーは皿に乗った肉をそのままかぶりつく。
熱々のはずだが、平気らしい。猫だが猫舌ではないようだ。
俺の分もいい感じで焼けたので、フォークを使って皿に乗せる。
「にゃんこさん、器用ですね~」
ナイフも持ち、いざ実食。いただきまーす。
「みゅ~(このドラゴンとも魚とも言えない中途半端な味わいが、最高にゃ~)」
「誉(ほ)め言葉には聞こえんの……」
うむ、マグロドラゴンは海の生態系の上の方にいるせいか、色んな魚の風味がブレンドされているな。
ただ、若干の癖があり味の繊細さが欠けているため、珍味扱いされてしまっているが。
アウレネとシルフ婆さんの分も焼きあがったようで、彼女らは塩コショウを振って食べ始める。
「はふはふ」
「変な味じゃな。美味いかどうかで言えば美味いがの」
「みゅ~(そういえば、オリバーとチャールズはどこにゃ?)」
「にゃー(オリバーは中庭のダンジョンに籠ってる。チャールズは大工ギルドで仕事だ)」
「お昼くらい、ゆっくりすればいいのにのぅ」
「ですね~」
こうして俺達は、マグロドラゴンをぺろりと平らげた。
ごちそうさま。
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