525.【後日談5】憎しみと愛の献身 その8


・肉球魔王様視点



宿屋の管理人室のベッドの上にて。

俺は首輪型PCで映像を投影する。


魔獣都市マタタビ南地区病院に、2人の眠った人間が運ばれた。

アレックス君が付き添っている。

俺は病院の監視カメラの映像越しに、その様子を見守る。


あの2人はネルの娘だ。

当時の俺は、ホステスへ偏見があったので、大反対した。

そんな身売りみたいな職業はやめろと。

非常に失礼な事言ってたなぁ。


結果2人からは酷く嫌われたし、俺も嫌ってしまっていた。


だが、それ抜きにしても、幼い頃の2人から散々お金をせびられた。

もっとお金の大事さを教えるべきだったか。


いや、2人が働き始めてから、そういうせびりは無くなったから、多分本当にお金の価値が分かってなかったのだろう。

あるいは俺という存在に頼る必要も無くなったからだろうか。

とにかく、大人になった2人とは疎遠になった。


老後の2人が、地下で何かしているのは知っていた。

だが、まさかその身が朽ち果てる直前まで、アレックス君の研究を受けついでいたとはな。

というかもう亡くなっているものだと思って観察していなかった。

2人が俺に無関心だったように、俺もまた無関心だった。


もし俺が2人の研究を手伝っていたら……いや、たらればは無意味か。


2人は現在、再生医療による全身の臓器の修復を受けている。

その後は美容外科手術を受ける予定らしい。


明日には、18歳の頃の姿の2人が見られることだろう。



「猫さん、何見てるのー?」


「にゃー(ネルの娘の2人)」


「えぇっ!? 娘!? こんなババァなんて知らないよー!」



おいネル。

そのセリフ、2人の前では言うなよ?

絶対傷つくぞ。



◇ ◇ ◇ ◇



・ヴァニラ視点



アレックス様に抱きしめられた時、今までの事が走馬灯そうまとうのように思い出されましたの。


私が5歳の頃、アレックス様は12歳。

お母さまとアレックス様の母親ニコ様は懇意こんいだったそうですが、ニコ様は他国のスパイによって惨殺ざんさつされたそうですわ。

なのでアレックス様は、孤児院で暮らしているのだとか。


今思えばニコ様にも財産があったはずなのに、国が没収していたようでしたの。

つくづく、このフランベル国は救えませんわ。


私が12歳の頃、アレックス様は婚約しましたの。

お相手はバロム子爵の令嬢。

バロム子爵は勇者の末裔で、奇抜な発明に理解があり、アレックス様に唯一投資していたお方。

私の初恋は実らず終わってしまいました。


だけど自分にも何か、アレックス様のために出来る事があるはず。

14歳の時、私のお小遣いを全額はたいてホステスを開きましたわ。

あのけだものは、そんな事しなくてもいいとめてきたけど、これは私の人生。

指図される筋合いはありませんの。


1年後、ホステス業は順調に続き、いい具合に売り上げを伸ばしましたわ。

17歳の時、ようやくアレックス様に投資出来るだけの売り上げが出てきました。

店舗を何個も作れるだけのお金を投資する事に、従業員は全員同意しましたわ。

私を応援してくれたんですの。


だけど投資の3年目、19歳の時、アレックス様が通り魔に殺されましたわ。

26歳という若さで。


それから、何のために生きているのか分からない状態が2年くらい続きましたの。

その間、従業員は次々、結婚し子どもを作りましたわ。

私は、新しい恋を見つける事が出来なかったんですの。


アレックス様が亡くなって5年。

ようやく、私の使命を見つけましたわ。

アレックス様がやり残した研究を、続けさせること。

それがアレックス様が報われる唯一の方法である、と。

アレックス様の後継に投資することを決めましたわ。


ですが、ここで誤算。

錬金術師達は何と、アレックス様の研究を、誰も引き継いでいませんでしたの。

馬鹿な連中。アレックス様の身近に居ながら、アレックス様を理解していなかったなんて。


だから私が自ら、研究を引き継ぐしか無かったんですの。

妹のカリンも手伝ってくれましたわ。


そして私が55歳の時、ようやく人工魔石の製法を確立。

遺骨に小さな魔石を埋め込み、残留思念を増幅させ、活動させますの。

活動する骸骨は、生き物に比べ微弱ながら、魔力を生成します。

それをかき集め、人工魔石へと精製するのですわ。


この技術を錬金術工房へと持ち込みました。

しかし錬金術工房の連中は、私を悪魔みたいに扱いましたの。

話にならない。彼らでは駄目ですの。

次の世代に期待することにし、一旦身を引きましたわ。


私が60歳の時、お母さまが死亡。

お母さまの遺産を使い、人工魔石を製造するための地下都市を作成。

カリンと一緒に地下都市にこもることにしましたわ。


70歳の時、作った大量の魔石を錬金術工房に見せに行きましたの。

今度は製法だけでなく証拠もきちんと揃えました。

だけど相手にされませんでしたわ。

10年の歳月は、次の世代になるには短すぎたようでしたの。


そしてその頃から体が衰えてきましたわ。

老衰から自分を守るために、地下都市の時間の流れを遅らせる魔道具を作りましたの。

今度はフランベル国が滅んだ時に、新しい国の錬金術師に人工魔石の製造を託そうと決めて。


そして何度も国の名前が変わって、何度も何度も錬金術工房を訪れ、断られましたわ。

死霊術みたいだ、と忌み嫌われましたの。


78歳の時、妹の性格が、短気で怒りっぽくなりましたわ。

確か認知症という病気、詳しくは知りませんの。

ですが以前のような聡明さは無くなりましたわ。

私と周りの骸骨以外の顔などが分からなくなってしまいましたわ。


今年で89歳、そろそろ限界か、そう思っていると、アレックス様が現れましたの。

私は夢の中に居るのでしょうか、もう死んでしまっているのでしょうか。



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