524.【後日談5】憎しみと愛の献身 その7
・肉球魔王様視点
先日、魔獣お風呂大作戦を行った。
その時、獣人国から移住してきたエルフが、こんな事を言った。
「そういえば、人間もお風呂に入るんですよね?
エルフも入った方が良いのでしょうか?」
これを聞いた時は、風呂入ってなかったのかよと、びっくりしたが、そういえば、エルフは森を大事にする民。
風呂を沸かすとなれば木材など燃料が沢山必要だ。
彼らにとって、それは森の資源の無駄遣いに他ならない。
なので知識として知っていたとしても、まず風呂を沸かすことはしない。
体をお湯で拭く、くらいで済ませる。
風呂など、木材を大量消費する
だが、魔獣都市マタタビの風呂のほとんどは魔石式。
エネルギー変換効率はほぼ100%。
魔石も、地下で大量に作っている、ゴーレム作成用の魔石を転用している。
エルフ達が危惧する、森の破壊は全く生じないのだ。
というわけで、夜。
住民ならば無料で利用出来る銭湯にて。
アウレネやオリバー君、チャールズ君が、獣人国から移住してきたエルフへ、風呂の入り方を指導することとなった。
もちろん男湯と女湯に分かれていて、俺は男湯側に居る。
「おいデブ猫! 貴様も指導を手伝えッ!」
「にゃー(だが断る)」
エルフ達が風呂に入る前に化粧を落としているのを横目に、俺は
岩盤の上に敷いたタオル越しに伝わる熱が気持ちいいぜ。
◇ ◇ ◇ ◇
・錬金術師アレクサンドラ視点
「アレックス様のために作り上げた人工魔石ですわ。
これでゴーレム作成の研究がはかどりますわね」
あぁ、そういうことか。
2人が人工魔石を作っていたのは、俺がゴーレム作成の際、魔石の安定供給を確立する前に死んだから。
作った人工魔石は、いつかゴーレム作成に携わる錬金術師に、技術ごと渡すつもりだったのだろう。
俺の研究を無駄にしないために。
いや、実際に錬金術師とコンタクトを取ったはずだ。
この魔石をゴーレム作成の研究に使ってくださいと言いに行ったはずだ。
しかし何らかの理由で拒否された。
仕方なく、地下で魔石の生産を続けることにした。
ま、あくまで想像に過ぎないけど、一応確認するか。
「俺が死んだ後、人工魔石の製造技術を錬金術工房に持って行ったりしたの?」
「もちろんですわ。
ですが彼らは私達を、死霊を操る悪魔呼ばわりして、話になりませんでしたわ」
「その事を、猫さんには話したの?」
「どうして? お母さまに
「……」
そういえば、猫さんと2人は、仲悪かったんだっけか。
猫さんは理屈っぽい考え方をするタイプなので、感情優先の2人とは馬が合わないことが多かった。
あと、2人はやたらと猫さんにたかっていたので、猫さんもうんざりしていた。
ま、その事は今はいいか。
「この都市の骸骨は、フランベル国の記憶を持つ個体が多かったようだけど、それはどうして?」
魔石を作るだけなら、次々と新しい骸骨を導入すればよかったんじゃ?
と続けようとしたけど、カリンがクワッと目を開いて言う。
「ニコ様も、アレ
錬金術師って、国の大事な大事な財産だよねぇッ!?
何でフランベル国民は、もっと錬金術師を大切にしなかったの!」
「まぁ落ち着きなさいカリン。アレックス様、聞いてくださいませ。
フランベル国の民は、アレックス様という国宝を失った時、まるで他国の事のように関心が薄かったのですわ。
到底許される事ではありませんわ。だから
「そうだよ! 死んでも働き続けちゃえー、ってねッ!
永遠に続く、働き続ける夢を与えてるんだよ!」
う、うん。
要するに、働く骸骨にフランベル国の住民が選ばれた理由は、彼女達の
夢を見せている理由は、この都市に縛り付けるため。
彼らは、自分たちが既に死んでいる事すら気付かずに、働き続けるのだろう。
あと、この空間の時間の流れが極端に遅いのは、ヴァニラとカリンが寿命を迎えないようにするため。
他の住人は皆、骸骨化しているけれど、2人だけは生身の人間だ。
普通に時間が流れてしまっては、あっという間に寿命を迎えてしまうからね。
とはいえ、2人の体はもう限界に近いようだけど。
俺は、気流を錬金術で作り出し、自分の体内から香水成分を振り払う。
香水によって生み出されていた幻覚が解除される。
再び視界が戻り、真っ暗な空間に俺は居た。
「『闇を照らせ。【ライト】』」
部屋が照らされ、2人と女性スタッフ達の本当の姿が現れる。
女性スタッフ達は当然、皆骸骨だった。
そして2人は、ガリガリにやせ細っていて、ほとんど髪の毛も抜け落ち、顔に目立つただれやシワがあった。
本来の、
空間の時間の流れをいくら遅らせたとしても、年を取らないわけではない。
俺がここに来なければ、遠からず2人は亡くなっていただろう。
「あ、あぁ……そんな……み、見ないで、見ないでくださいませ、こんな、こんな
ヴァニラは顔を隠して泣いてしまったが、俺はそんな彼女をそっと抱きしめた。
「ありがとう。俺の研究を引き継いでくれて。
今日まで人工魔石を作り続けてくれて。
辛かっただろ、大変だっただろ、よくやったね」
「アレックス様ぁ、アレックス様ぁ……」
「ひゅー、アレ兄、色男ー」
カリンがからかってきたり、周りの骸骨女性達が『キャーキャー』うるさくしている。
俺はヴァニラが泣き止むまで、抱きしめていた。
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