526.【後日談5】憎しみと愛の献身 その9


・地下都市にて



ネルの残留思念が入った動く骸骨は、宿屋の外に出て、2人の娘がアレクサンドラによって連れていかれるのを眺めていた。



『よかったね』



自分の思い人の研究を受け継ぎ、そして八つ当たりのようにフランベル国民の骸骨に働かせる。


しかし、そんな事をしても、何も満たされる事は無かっただろう。


既に亡くなったフランベル国民を2度殺したくなるほど憎んでも、自分らの心に痛みが跳ね返ってくるだけ。

既に亡くなったアレクサンドラを燃えるように愛しても、自分らの心に虚しさが残るだけ。


きっと娘たちは、苦しみながら死んでゆくものだと。


そう思っていた。


しかし、アレクサンドラがこうして死から蘇り、娘たちを苦しみから解放した。

娘たちは自由となった。



『うわぁあああああ!? 何で都市が骸骨だらけなんだよー!?』


『そう言うお前も骸骨やん』



そして現在、アレクサンドラの配下のゴーレム達が、四次元空間にせっせと動く骸骨達を回収している。

その際に、彼らにかけていた夢も解除したらしい。

骸骨達が互いを見て、互いを化け物呼ばわりしている変な光景が見られる。


時間経過を遅らせる魔道具も回収された。


私も回収された。

回収される前に、ゴーレムさんに私をどうするのか聞いてみたところ、アレクサンドラ研究所に雇われるだろうとのこと。


私達はまだまだ働かされるらしい。

でも壊されるよりマシか。

隙を見て娘の様子を見守ることにしよう。



◇ ◇ ◇ ◇



・錬金術師アレクサンドラ視点


翌日。

地下都市から連れて帰ったヴァニラとカリンが退院した。

俺は病院の玄関で2人を迎えた。


妹のカリンは18歳の金髪の美少女姿に、姉のヴァニラは19歳のブロンズ髪の美少女姿になった。

さすが魔獣都市マタタビの医療技術。

当時の肖像画を見せただけで、美容外科医がここまで再現してくれるとは思わなかった。


見た目は若くなっているが、2人とも年は90歳近くだ。

しかしまぁ、魔獣都市マタタビは再生医療とアンチエイジングがずば抜けているので、衰弱死はまず起こらないだろう。


そして2人のたっての希望で、一緒に錬金術工房まで歩いている。

2人の技術を、今度こそ受け取ってもらうらしい。


道端には、足を折りたたんで座り、あくびしているネコ科魔獣。

母親の乳を踏み踏みしている子どもネコ科魔獣。

遊び疲れて寝ているネコ科魔獣などが居た。



「猫が多いのは気のせいですの?」


「そりゃ魔獣都市マタタビは、ネコ科魔獣の楽園だからな」


「わーい、この子かわいいよー」



カリンが途中、道端の黒いネコ科魔獣を拾い上げる。

だけど拾われたネコ科魔獣は抵抗しない。


「まーう(無駄なんだ……流されるままに生きるしかないんだ……)」


「何で人生諦めたような目してんの君」



前々から思っていたことだけど、この魔獣都市マタタビのネコ科魔獣、どこかおかしい。



◇ ◇ ◇ ◇



錬金術工房の前で、角付きの青いネコ科魔獣に止められた。



「にゃっふ(おおっと、ここから先は関係者以外立ち入り禁止だぜ!

用件を言いな!)」


「錬金術の技術について、カルロと話がしたいんだけど」


「にゃふう(そこの2人とダウニャーも一緒か?)」


「2人と……いや、黒猫魔獣は関係ないよ。カリン、その子離してあげて」


「仕方ないなー」



カリンが地面に黒猫魔獣を置く。黒猫魔獣はだるそうに横になった。

そして俺達は青猫魔獣に案内され、カルロの居る部屋へ向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



応接室にて。俺らは上等なテーブル席に着いた。

向かいに工房の長のカルロ、そして魔獣幹部金の亡者が座っている。

傍にはボディガードとして、青猫魔獣がスクワットしながらこちらを見ている。

……突っ込まないぞ!



「結論から申し上げますと、この動く骸骨を用いた、人工魔石製造技術の受け取りは出来ませんね」


「うんみゅう(非常に残虐的な技術。死者の冒涜ぼうとくはなはだしい。論外)」


「金の亡者が申している通りですが、肉球魔王様の掲げる研究倫理に大いに反します。

我々研究者は、研究対象がどんな者であれ、その者の生きる権利を守ったり、あるいは苦しみを最大限少なくする義務があります。

アレクサンドラ様、肉球魔王様から教わらなかったのですか?」



猫さんは、錬金術師に研究技術を教えるだけでなく、きちんと研究における倫理も守らせていた。



「教わったよ、もちろん。研究対象を敬うのは大事だ。

だけど、これは俺達プロの錬金術師じゃなくて、素人のヴァニラとカリンが生み出した技術だ。

その過程で、多少は倫理的に反する事をしたかもしれないけど、そこは大目に見てもいいんじゃないのか?」


「アレクサンドラ様、そこの女子2人をかばいたい気持ちはわかりますが、それはそれ。

時代が時代なら、そこの女子達は火あぶりにされても文句言えないほど邪悪な事をしているのですよ」


「分かってるよ。だけど技術は技術だ。資料を受け取るだけなら何も問題ないんじゃない?」


「あのですねぇ……」



結局、新たな魔石製造技術は受け取って貰えなかった。

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