511.【後日談4】魔獣都市マタタビに住みたい その3


・ある旅魔獣視点



俺は快適な昼寝場所を求め、あちこちテクテク歩く。

すると、肉を焼くなんとも言えない良い香りがしてきた。


ふむ、香りは、このお店から来てるぞ。

雑貨屋クローバーというのか。入ってみよう。


店内は落ち着いた木製の建物だ。

お肉はどこかな?



『にゃー(けずって削って削ってなんぼ♪ カツオ削りぶし~♪)』

『んなうガォうんみゅうアァー(カツオ削りぶし~♪)』



近くにある黒くて四角い魔道具から、ネコ科魔獣の鳴き声が聞こえてきた。

不気味な魔道具だな。(店内BGMを流しているだけです)


まあいいか。お肉お肉……あれか。

この雑貨屋、どうやら店内で飲食が出来るみたいだ。


貰った魔道具の首輪に、少しだけお金が入っている。

魔獣都市マタタビの住人になった者は、毎日お小遣いを貰えるのだ。


俺は丸テーブルにき、さっそくお肉を注文することにした。



「みにゅっ(『おいしさ限界突破! 中央都市チザン産グレードB5牛鬼ぎゅうきステーキ』をください)」


「分かったわぁ~」



お店の奥から声が聞こえ、続いて宙に文字が現れる。

俺が使った金額、そして首輪に残っている金額が表示されている。


この魔道具の首輪は、付けているだけで物々交換の品も、財布も要らなくなるのか。

かなり便利だな。


なお、飲食は先払いのため、自分の持っている金額を超える注文は当然出来ない。

つまり食い逃げは不可能、と。まぁ、しないけど。


肉が焼ける音。

しばらくすると、1枚のステーキ肉が乗った木皿が運ばれてきた。

いただきまーす。


むっしゃむしゃ。


……。


…………!


うんまぁ! めちゃジューシー!


俺はとても幸せな時間を過ごしたのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



・ある旅魔獣視点



雑貨屋クローバーを出た俺は、昼寝場所を探し歩いている。


腹も膨れ、いい感じに日が照っており、そろそろ眠気がピークへと達してきた。

もうその辺に寝転がろうかな。


と考えていたら、ひらけた場所に出た。

中央広場、ここは魔獣都市マタタビの中心、と書かれた案内板が立っている。

昼寝中のネコ科魔獣も沢山居るようだ。


ふむ、ここで昼寝することにしようか。


俺はあくびをしつつ丸くなり、意識を手放すのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



・ある旅魔獣視点



俺は昼寝から目を覚ます。

周囲は真っ暗だ。今は夜だな。

壁や柱に埋め込まれた魔道具が、ポツポツと光っている。


温もりを感じるので首をひねると、俺にくっついてのんびりしている赤茶色のネコ科魔獣が居た。

昼寝中にそばに寄ってきたのかな。


せっかくなので毛づくろいしてやるとしよう。


ぺろぺろ。



「に゛ー(やめろー)」



両前足で全力で拒否された。

俺の親切心は届かなかったらしい。



「んなー(では、これより魔獣幹部の会合を始めますぞ)」



お、こんな場所で会合が開かれるのか。


魔獣都市マタタビでは、魔獣幹部と呼ばれる者が都市の運営をしている。

その様子が見られるわけだ。どんな事を話すんだろう。



「んなぅー(連絡事項は? 特に無いですかな?)」


「アァー……ナ……イ」

「無いねぇ」

「ガゥ(何事もなく平和だ!)」

「うみゅう(無し)」


「んなおう(では解散!)」



会合は10秒で終わってしまった。短すぎる。

俺には分からないが、多分仕事が出来る魔獣だから、必要最低限以上の会合はしないのだろう。


そして、昼寝が終わって元気を持て余していた俺は、近くで追いかけっこして遊んでいた奴らに混じることにした。

追いかけっこは朝まで続いた。俺が最下位だった。あいつら元気すぎるだろ。


こうして徐々じょじょに、俺は魔獣都市マタタビに馴染んでいった。

今では食って寝て遊んでのループを繰り返す立派な市民だぜ。

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